ワークライフバランスにも影響する!? 残業代ゼロ時代の“働きかた”を考えてみた
いわゆる「残業代ゼロ法案」を巡って、議論が続いています。
2007年、第1次安倍政権は「残業代ゼロ法案」を国会に上程しようとしましたが、世論の強い反対にあい、見送られることになりました。当時、政府は、この制度を「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼んでいました。
「ホワイトカラーエグゼンプション」では国民の理解が得られないとみたのか、最近は「高度プロフェッショナル制度」(以下、高プロ制度)と呼んでおり、残業代ゼロの実現に向け、安倍政権は2度目のチャレンジとなります。
無論、労働側の反対は根強く、例えば連合会長は4月29日のメーデーの挨拶で、「まったく理解できません」「連合は断固反対」と訴えていました。
法案審議のゆくえはともかく、「高プロ制度」とはどういう制度で、導入がされた場合どう対処すればよいのかについて、少し考えてみたいと思います。
「高プロ制度」とは?
「高プロ制度」は、簡単に言えば、労使の間で合意があれば「高度の専門知識を必要とし、時間と成果の関連性が高くない業務に就く人」に対して、いわゆる残業代(時間外割り増し、深夜割り増し、休日割り増しの賃金)を支払わなくてよくなる制度です。その対象となる職種は金融ディーラー、アナリスト、金融商品開発、コンサルタント、研究開発業務などとされ、年収では、1,075万円を目途に、それ以上の人が対象となるというのが、政府の案です。
この対象者になった場合、自分の業務がこなせれば、1日8時間、週40時間働かなくてもかまわなくなり、自分の都合で、平日に休みを取り、休日に出社して働いてもよいということになります。
もしあなたが「高プロ制度」の対象だったら?
では、あなたが高プロ制度の対象職種に就いていて、年収も対象となる条件を満たしていると仮定して、高プロ制度が導入された時、どう考えればよいのか、ポイントをおさらいしてみましょう。
まず気になるのが、残業代です。残業代はゼロになるわけですが、現在どのような賃金体系になっているかをよく把握した上で考えないといけません。
例えば、従来の平均残業時間に相当する残業代を基本給に反映している企業は少なからずあります。その場合は、残業代がゼロになっても収入はほとんど変わらず、時間的に自由な働き方ができるようになります。あるいは、すでに管理職に就き、従前から残業代が支払われていなければ、年収はほとんど変わらないでしょう。
けれども、会社から新たな業務を命じられたらどうなるでしょう? 給料は変わらず、ただ働かなくてはならない時間が増えるだけになる可能性があります。(「高プロ制度」が「定額制の働かせ放題」の制度になるという批判は、この点を危惧しているのです)。
何に気を付ければよいのか
ここでポイントになるのが、「職務記述書」というものです。
実は、労働基準法の改正法案は、高プロ制度を導入するにあたって、「職務記述書」等によって労使間で職務の内容について合意する必要があるとしているのです。ですから、事前に取り交わす「職務記述書」にどこまで具体的に職務内容を書き込めるかが重要なポイントとなるのです。
高プロ制度に関して、『週刊東洋経済』5/30日号が興味深い指摘を行っていたので、それを簡単に紹介しておきたいと思います。
現在、労働基準法が定める1日8時間、週40時間という法定労働時間はあるものの、(同じ労基法の36条の規定に基づき)労使協定があれば、事実上、無制限の残業が可能になっています。しかし、高プロ制度が導入されると、労働者の健康確保措置として、①勤務間にインターバルを設ける、②1か月あたりの残業時間の上限(80時間)を設ける、③1年間に109日以上の休日の確保のいずれかの措置を講じなければならなくなります。
つまり、高収入の労働者には、労働時間の上限規制ができるのに対し、その他の労働者は残業時間の上限がないままという、錯綜した状態が生まれるというわけです。
極端に言えば、「高プロ制度の対象者になり、残業代分の収入増が見込めなくなったにもかかわらず業務が増えた」人と、「高プロ制度の対象者でないため、残業に上限がなく残業代を含めればかなりの高収入になる」人が生まれるかもしれないのです。
高プロ制度の対象職種に就いている人は、まさに高度の専門知識を身に付けた人であります。ですから、会社を離れ、独立することが比較的容易な人も多いと思います。高プロ制度の議論の深まりは、このまま会社に残るべきか、独立を考えるか、自身のこれからの働き方を見直すよい機会かもしれません。