時間外労働の上限規制とは? 中小企業の正社員400人を調査!「期待している」は32.3%
中小企業でもいよいよ4月から、働き方改革の目玉の一つ「時間外労働の上限規制」がスタートします。これは月45時間、年360時間以上の残業を禁止するという法改正で、それを超えて働かせた企業には厳しい罰則が与えられます。
そこで、サーブコープは中小企業の正社員400人にアンケートを実施。時間外労働の上限規制に期待しているかを聞いたところ、「期待している」と答えた人は全体の32.3%で、「期待していない」は53.3%に。そもそも残業がほとんどないと回答した人も14.5%いました。
長時間労働の改善は、働き方改革の目玉となる政策にもかかわらず、なぜ「期待していない」が「期待している」を上回っているのでしょうか。本記事ではアンケート調査の結果を分析するとともに、回答者から寄せられたコメントも紹介。後半では、「時間外労働の上限規制」について分かりやすく解説していきます。
「労災交渉ができる」「残業手当が減る」期待する理由としない理由
アンケート調査では、期待しない人が期待する人を上回りましたが、期待しない人と期待する人それぞれの理由をみていきましょう。
時間外労働の上限規制に「期待している」と答えた32.3%の人たちが寄せたコメントには、「プライベートが充実するから」「残業をするのが当たり前の世の中が変わってほしい」といった声が多数。そして、「法律を理由に仕事を断れる」「過労死も防げそう」「労災交渉ができる」といった、自分の身を守るための法的な盾ができた点が、今までと大きな違いだと評価する意見も多くありました。
そして、最も多かったのが「期待していない」と回答した53.5%。期待しない理由をみていくと、中小企業が抱える人手不足という問題が起因していることが分かります。中小企業庁は2018年に公表したホワイトペーパー(※1)の中で、年々規模の大きな企業に人材が流れており、中小企業における人手不足は経営上の大きな課題になっていると報告しています。アンケートで「期待しない」と答えた人たちは、いくら残業時間が規制されても仕事量が減ったり、人手が増えたりしない限り、誰かにしわ寄せがくることは避けられない実態を痛感しているのかもしれません。
2020年4月から中小企業で始まる時間外労働の上限規制が、どれだけ実効性を持つのかは現時点で分かりませんが、法的拘束力を持つことは事実です。では違反した場合、企業にはどんな罰則が科せられるのか、また、そもそもなぜ時間外労働の上限が規制されることになったのか、経緯をみていきましょう。
そもそも時間外労働の上限規制とは?
近年、長時間の残業によって心身の健康を損ない、うつ病になったり、自殺や過労死に追い込まれたりするケースが問題となっています。また、長時間労働は、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化や女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を困難にする要因にもなっていると報告されています。
そこで政府は、労働者が心身の健康を損なわず、高いモチベーションをもって働ける環境を作るべく、2019年4月に施行した「働き方改革関連法」を通して、長時間労働の是正を図ろうとしています。それが時間外労働の上限規制です。
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時間外労働の上限規制は、大企業にはすでに2019年4月から適用されており、中小企業は2020年4月から適用されます。ただし、自動車運転の業務に従事する労働者などは適用が2024年4月からなど、業種によって一部例外はあります。
時間外労働の上限規制を簡単に説明すると、企業は次の3つを必ず守らなければならないというものです。
2.繁忙期など、臨時的な特別な事業がある場合でも、月100時間未満、年720時間を超えて残業をさせない
3.いかなる場合でも、月100時間未満、2~6カ月平均80時間を超えて残業をさせない
➡ 違反すると6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
少しルールが複雑なのでイメージがつかみにくいですが、例えば「前月の残業時間75時間、翌月の残業時間90時間」の場合、2カ月平均で80時間を超えているので、NGとなります。
もし、これらのルールを破ってしまうと、企業は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます
罰則を与えられるのは、労働者ではなく、あくまで企業。具体的には「使用者」です。使用者とは、経営者だけでなく、労務管理を行う管理職なども含まれます。
そのため、経営者や管理職は、勤怠管理システムなどを活用して、部下の正確 な労働時間を把握しながら、残業を抑える努力をしなければなりません。残業申請のルールがきっちりしておらず、「サービス残業」といった未申請の残業がまかり通っている職場などは、特に注意が必要になります。
「36(サブロク)協定」はどう変わるのか
実は、これまでは「36(サブロク)協定」で定めてさえいれば、企業は過労死ラインと呼ばれる月100時間以上の残業をさせても、違法ではありませんでした。
そもそも、労働基準法では、企業は1週間に40時間、1日に8時間を超えて働かせてはならないと定めており、これを法定労働時間といいます。もし、法定労働時間を超えて働かせると、企業は罰則を与えられる場合があります。
しかし、例えばデパートなどで、年末商戦のような繁忙期にも関わらず法定労働時間を守っていたら、商売になりません。そこで、労働者の過半数代表者(※2)と企業が書面による協定を結べば、法定労働時間を超える残業を命じることができるようになっています。
(※2)過半数労働者は、パートやアルバイトを含む労働者の過半数で作る労働組合がない場合に、投票や挙手などの方法で選ばれます。その際は、企業側の指名や、社員親睦会の代表などのように、企業の意向に基づいて選ぶことはできません。
このルールは、労働基準法第36条によって定められているので「36協定」と呼ばれています。企業はそもそも、この36協定を結び、労働基準監督署に届け出ていなければ、労働者に残業を命じることができないのです。
では、なぜこれまでは「残業させ放題」だったのかというと、この36協定では、トラブル対応など特別な事情が予想される場合には、1年の半分までなら、時間外労働の上限を無制限に設定できたからです。過労死ラインを超える残業をさせても、それを、36協定で決めてさえいれば違法にはなりませんでした。
しかし、4月からの時間外労働の上限規制によって、トラブル対応や繁忙期など、どんなに特別な事情があって36協定を結んでいたとしても、月100時間未満、2~6カ月平均80時間、年720時間を超える残業は違法になります。
しかも、この「特別な事情」について、企業は、「製品の品質トラブル」「突発的で大規模なクレーム対応」など具体的に、36協定の中で設定しなければなりません。「業務上やむを得ない場合」「業務の都合上、必要なとき」など、どうとでも解釈できてしまうような条件は、不適切とみなされます。
今までは?
36協定を結んでいれば、過労死ラインと呼ばれる月100時間以上の残業でも法的には可能。
これからは?
36協定を結んでいても、月100時間未満、2~6カ月平均80時間、年720時間を超える残業は違法。また、36協定を結ぶ根拠を具体的に設定しなければならない。
企業も労働者も注意が必要。なぜ?
時間外労働の上限規制は、企業側も、そして労働者側も注意が必要なルールです。
例えば、経営者や管理職が残業を指示せず、「部下が勝手に残った」場合でも、それが労働時間とみなされ上限規制に引っかかれば、罰則の対象になります。「使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内ではなされ得ない場合」は「黙示の指示」とされ、使用者の指示とみなされるからです。
もし、使用者が、部下が残業しないと終わらない量の業務を命じていたり、部下が残業をしていることを知りながら、残業を中止させずに働かせたりした場合、その時間が労働時間に当たるケースがあるのです。
つまり、企業はどんなに忙しくても、労働者の「勝手な残業」だと黙認せず、残業しなければ間に合わないような仕事は、人員の補充や業務量の調整などで対応することが求められることになります。
一方、働く側も気を付けなければなりません。「時間内に業務を終わらせられなかったことを、上司に知られたくない」といった理由から、残業申請をしなかったり、過小に労働時間を報告したりといったことは禁物です。
部下が過小に労働時間を報告し、上司が修正した結果、残業時間が2〜6カ月平均で80時間を超えてしまうといったミスが発覚すれば、企業が上限規制に違反してしまう可能性があるのです。最近では、パソコンの起動時間などで正確な労働時間が把握できたりもするので、正直に申告しましょう。
ただ、アンケートの結果からも分かる通り、上限規制を守ろうとするあまり、未申請の「サービス残業」などが発生してしまうのは本末転倒です。その場合は企業と労働者が話し合ったり、労働者が労働相談センターなど、外部の機関に相談したりするなどの対処が必要になるでしょう。
いずれにしても、企業と労働者が、協力し合って「働きやすい職場」を作り、労働者のワーク・ライフ・バランスが改善すれば、企業としても、生産性の向上や人手不足の解消が望めます。時間外労働の上限規制は、お互いがプラスになる取り組みであることをしっかり自覚することが、取り組みの第一歩です。
(※1)中小企業庁|深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命
施行から1年、いまさら聞けない「働き方改革」とは? 「働きやすくなった」は2割
<調査概要>
調査タイトル:働き方改革についてのアンケート調査
調査方法:インターネットリサーチ
調査期間:2020年1月22日〜1月29日
調査対象:従業員数300名未満の企業に勤める20~69歳の男女400名