法案成立から見る、ビジネスシーンで女性が活躍するために必要なこと
「意外とわかっていない!?本当の「ダイバーシティー」の意味って?」でお伝えしましたが、ダイバーシティー(多様性)を受け入れる企業文化を醸成していくことが今後ますます重要になりそうです。安倍政権の重要政策のひとつ、女性活躍推進法が2015年8月28日に成立しました。男女雇用機会均等法の制定から30年。日本の女性の働き方は、新しい段階に入ろうとしているようです。今回は、いくつかの事例を通じて、女性の活躍推進に必要なことは何かを考えてみたいと思います。
初めに、女性活躍推進法のポイントを確認しておきましょう。
女性活躍推進法は、従業員301人以上の企業と、雇用主としての国や地方自治体、学校、病院等、あらゆる団体、組織に対し、女性登用について数値目標を含む行動計画の作成と公表を義務付けています。女性採用比率・勤続年数の男女差・労働時間の状況・女性管理職比率といった項目で現状を把握し、その改善に向けた取り組みや目標を公表するだけでなく、達成度の定期的な公表も義務化されます。
ただし、義務化といっても、計画なしや目標の未達に罰則はありません。また、契約社員やパートの女性を「行動計画」の対象にするかどうかは、企業・団体の判断に委ねられています。
これらの点を批判する意見もありますが、「“見える化”されることで市場原理が働き、女性の活躍推進のインセンティブになるのではないか」(『日経ビジネスON LINE 女性活躍推進法が成立、1万5000社に課される数値目標の作成』2015年9月8日)と、政府は考えているようです。
企業の意図とは反して、女性の労働意欲を削いでしまう問題も
〝女性登用の義務化〟は、働く現場において様々な混乱も生んでいるようです。
例えば、『日経ビジネス』は、早くも2013年8月26日号で『女性昇進バブル わが社の救世主か疫病神か』という特集を組み、女性登用の難しさを指摘していました。
その特集では、女性が優先的に昇進していると感じる男性社員の不満感や、子育て中の女性社員と子供を持たない女性社員の間に軋轢が生じているケースなどが、取り上げられています。
また、『東洋経済 ON LINE』で2015年2月2日に公開された記事『退職続出?無理な女性登用にご用心!』によれば、指導的立場に立つ女性社員の割合を増やすため、ヘッドハンターに多額の費用を支払って外部から優秀な女性を招聘しようとしているケースすらあるそうです。
さらに、この記事では、女性社員は管理職にならない前提の採用をしてきた会社が、急に女性管理職2割以上という数値目標を掲げた事例を紹介しています。女性社員のほとんどは結婚して退社することを考えていたために、管理職を打診されたことで困惑し、早期に退職してしまったり、労働意欲を削いでしまう結果になってしまったそうです。
『朝日新聞DIGITAL』のインタビュー記事に登場した大和証券グループ本社会長の鈴木茂晴氏は、「女性支店長の辞令はたまに出ていましたが、数が圧倒的に少なく、残念ながら象徴的な存在に過ぎませんでした。社員の意識を変革するための人事としては、ほとんど効果はありませんでした」(『朝日新聞DIJITAL 仕事のビタミン 鈴木茂晴大和証券グループ本社会長 8』、2012年10月15日)と、過去の女性登用がねらい通りにいかなかったことを率直に語っています。
ダイバーシティーの醸成があってこその女性登用
こうした女性登用が思うように進まない事例から、どういった教訓が読み取れるのでしょうか。
大和証券グループ本社の鈴木会長は、自身が社長を務めていた2009年、それまでいなかった生え抜きの女性役員を一気に4人誕生させました。鈴木氏は、先のインタビュー記事で、その狙いについて次のように語っています。
「1人の女性役員を象徴的に誕生させたとしても、周囲からのねたみの目にさらされてつぶされてしまう可能性があります。しかし、4人であれば、一定の存在感を示せます。私は実力のある女性役員候補が育つのを待っていました」(同前)
つまり、抜擢される女性を、孤立させてはいけないということではないでしょうか。
『日経ビジネス』の特集記事も同じような点を指摘し、次のような事例を紹介しています。ある会社では、女性の登用だけでなく、外国籍の人、親の介護を抱えている人、障碍者を含めた様々な人たちの多様な働き方を認めるようにしたことで、社内の理解が得られるようになったそうです。
そして、『東洋経済 ON LINE 』の記事を書いたセレブレイン社長の高城幸司氏も、女性が指導的立場で活躍できるような土壌として「ダイバーシティー的視点の醸成」(『東洋経済ON LINE退職続出?無理な女性登用にご用心!』、2015年2月2日)が大事であるとした上で、「拙速に推進せずに、時間をかけて」(同前)取り組むべきだということを強調しているのです。結局、ダイバーシティー(多様性)を受け入れる企業文化を醸成していくことに尽きるのかもしれません。
※参照元
『東洋経済 ON LINE』退職続出?無理な女性登用にご用心!
https://toyokeizai.net/articles/-/59304
『朝日新聞DIGITAL』仕事のビタミン
https://digital.asahi.com/articles2/TKY201210120219.html