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エンジェル税制とは? ベンチャー企業に必要な5つの要件や利用するメリットを解説

    ベンチャー企業にとって、資金調達は重要課題の一つです。社会的実績がまだ少ないベンチャー企業が、民間の金融機関から融資を受けるのは容易ではありません。そうした企業への投資を促進する目的として誕生したのが「エンジェル税制」。制度が始まったのは平成9年ですが、令和2年の税法改正で要件が緩和されたことを機に、改めて注目を集めています。

    本記事ではベンチャー企業側の視点に立ち、エンジェル税制の優遇措置を受けるメリットや申請方法、満たすべき企業要件について解説します。

    エンジェル税制とは?

    ベンチャー企業の資金調達手段の一つとなり得るエンジェル税制。正式名称は「ベンチャー企業投資促進税制」といい、ベンチャー企業に投資する個人投資家(エンジェル)を増やし、資金の流れを促進することを目的に国が制定した制度です。

    ベンチャー企業と個人投資家どちらにもメリットがありますが、個人投資家は投資をした年に所得税の優遇措置を受けられるほか、株式を売却して損失が発生した場合に、所得税及び住民税の優遇措置を受けることができます。

    ベンチャー企業にとってのメリットは、第一に個人投資家から投資を受けるチャンスが増えること。詳しくは後述します。

    エンジェル税制の優遇措置に必要な5つの要件

    ただ、ベンチャーだからといって、すべての企業がエンジェル税制の優遇措置を受けられるわけではありません。優遇措置を受けるためには、本店所在地の都道府県に申請を行い、定められた要件を満たす必要があります。その要件とは以下の5つ。

    ・要件1 
    特定の株主ないし特定の株主グループの保有する株式数の割合(持株割合)が5/6を超えないこと。
    ・要件2
    大規模法人ないし大規模法人グループの所有に属さないこと。
    ・要件3
    未上場・未登録の株式会社で、風俗営業等に該当しないこと。
    ・要件4
    中小企業であること。
    ・要件5
    企業の設立経過年数に応じた要件を満たすこと。

    5つの要件を一つひとつ、見ていきましょう。

    要件1特定の株主ないし特定の株主グループの保有する株式数の割合(持株割合)が5/6を超えないこと。 発行済株式総数の30%以上を保有している株主のことを特定の株主といいます。株主や、その親族また特殊の関係にある株主(オーナー株主・親会社・子会社)などの株主グループが、発行済株式総数の30%以上を保有していると特定の株主グループとなります。 特定の株主または特定の株主グループ単体で持株割合が5/6を超えないことはもちろん、複数存在する場合には、投資の合計額が5/6を超えないことも要件となります。
    要件2大規模法人ないし大規模法人グループの所有に属さないこと。 資本金が1億円を超える法人、または従業員が1000人以上いる資本金のない法人(社会福祉法人など)を大規模法人といいます。このような大規模法人や、大規模法人と特殊の関係にある個人や法人を、大規模法人グループと呼びます。 大規模法人(もしくは大規模法人グループ)に、発行済株式総数の2分の1を超える株式を保有されると、所有に属すこととなって企業要件を満たしません。また、発行済株式の3分の2以上を保有されている場合も同様です。
    要件3未上場・未登録の株式会社で、風俗営業等に該当しないこと。 未上場・未登録の株式会社とは、東京証券取引所やナスダックなどの新興市場にも上場していない企業のことを指します。つまり株式公開をしていない企業です。 この要件に加えて、さらに「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(通称・風営法)に定められている営業をしていない企業であることも必要となります。具体的な営業内容は、警視庁のHPに記載されています。
    要件4中小企業であること。 中小企業であることが要件となります。中小企業であるか否かは、中小企業基本法に基づいて決まります。その要件は業種ごとに異なり、資本金の額または常勤の従業員数のいずれかの条件を満たすことが必要です。 例えば、製造業や建設業は資本金3億円以下か従業員数が300人以下であること、卸売業は資本金1億円以下か従業員数100人以下などの要件が課されています。
    要件5企業の設立経過年数に応じた要件を満たすこと。 エンジェル税制は、企業の設立経過年数で、優遇措置ごとに要件が定められています。設立経過年数が5年未満であれば、優遇措置Aと優遇措置Bの適用企業となれ、企業の設立経過年数が5年以上の場合は優遇措置Bのみ利用できます。 それぞれ経過年数によって個別に要件が定められています。その要件とは、研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上になることや、直前期までの営業キャッシュフローが赤字であること、試験研究費等が収入金額の3%や5%を超えているか、売上成長率が25%以上であるかなどです。

     

    エンジェル税制を利用するメリットとデメリット

    投資を受けるチャンスが増えることは、ベンチャー企業にとってメリットでしかないように思えますが、デメリットとしてあげられる点もあります。導入を検討する前に、それぞれ確認しておきましょう。

    3つのメリット

    ① 資金調達のチャンスを生む

    ベンチャー企業だけでなく、出資する個人投資家にも有益な制度なので、自然と多くの投資機会が生まれます。事業がまだ軌道に乗っていないベンチャー企業にとって、資金調達への有力な手段となるでしょう。

    ② 投資家へのアピール効果

    エンジェル税制適用企業であることをアピールすることができます(事前確認制度を利用した場合)。希望すれば、経済産業省中小企業庁と各都道府県のWebサイトに企業情報を公表してもらうことも可能です。個人投資家を募るための宣伝媒体にもなるのです。

    ③ 安心した取り引きが可能

    エンジェル税制の優遇措置を受けるためには、ベンチャー企業だけではなく個人投資家も適用可否の審査を受ける必要があります。つまり、要件を満たした投資家から安心して投資を受けることができます。

    2つのデメリット

    ① 適用要件が厳しく手続きも大変

    エンジェル税制に申請するためには、企業要件を満たす必要があることは前述のとおりですが、手続きには多くの提出書類が必要で、書類作成にも手間がかかります。なかなか申請企業が増えない実状があります。

    ② 確認に時間を要する

    また、エンジェル税制の申請をすると、確認作業は都道府県が行います。その確認にも1カ月ほどの時間を要してしまいます。

    令和2年度の改正での変更点は?

    エンジェル税制は平成9年に制定されて以来、制度の利用を促すため何度も改正を繰り返してきました。しかし企業要件の厳しさや手続きの煩雑さなどのデメリットから、いまだエンジェル税制を利用するベンチャー企業は多いとは言えません。そこで令和2年に税制改正が行われました。ここでは、今回変更された3つのポイントを解説します。

    ① 優遇措置Aの設立年数の拡大

    従来、優遇措置Aの企業要件は設立後3年未満となっていましたが、今回の改正で5年未満の企業に拡大されました。設立3〜5年未満の企業では、試験研究費等が収入金額の5%を超え、かつ直前期までの営業キャッシュフローが赤字であることが対象企業の要件となります。

    ② 申請書類の一部削減

    エンジェル税制の申請書類についても変更がありました。都道府県に提出しなければならない申請書類のうち、定款や事業報告書、組織図、法人税確定申告書別表2の提出が原則不要になり、手続きの煩雑さが改善されています。

    ③ 企業要件の大幅緩和

    今回の改正では、クラウドファンディング事業者がエンジェル税制の対象企業になったのも大きな変更点です。認定を受けたクラウドファンディング事業者を通じて投資をする場合に限って、優遇措置A、優遇措置Bともに、「研究者あるいは新事業活動従事者に関する要件」「試験研究費に関する要件」「売上高成長率に関する要件」「特定の株主グループによる持株比率に関する要件」が撤廃されています。厳格な企業要件が緩和されたことによって、制度の利用増加につながることが期待できるでしょう。

    東京都でエンジェル税制に申請する方法

    申請の流れ

    ベンチャー企業は本店所在地のある都道府県にエンジェル税制の申請を行いますが、東京都の場合は「東京都エンジェル税制支援事務局」が窓口。エンジェル税制は必要書類が複雑なので、どうしても書類の不備が多くなり、申請までに何度か窓口とやり取りが生じてしまいます。

    そのため、正式な申請書類を提出する前に、まず書類の準備が整った段階で申請窓口宛てにメールでデータを事前提出。そのデータを窓口担当者が確認し、不備がなくなった時点で正式な書類を郵送し、申請となります。

    申請手順は事前確認の有無で変わる

    また申請は「事前確認制度」を利用するか否かで、ステップが異なります。事前確認制度とは、ベンチャー企業が投資を受ける前に都道府県に申請をすることで、エンジェル税制の企業要件を満たす旨の確認を受けられる制度です。事前確認をすることで、個人投資家へ自社がエンジェル税制適用企業であると説明できるので、円滑に投資を受けられるようになります。

    ・事前確認制度を利用しない場合

    投資を受けた後にエンジェル税制の申請をする方法です。この場合、個人投資家から投資を受けた後に、基準日(通常、払込期日)において、企業要件及び個人投資家要件を満たしているかどうかの確認申請を行います。

    ・事前確認制度を利用する場合

    投資を受ける前と投資を受けた後に、企業要件を満たしているかどうかの事前確認申請を行います。エンジェル税制適用企業と確認された後は、有効期限内に投資を受け、その後、基準日(通常、払込期日)において、企業要件及び個人投資家要件を満たす旨の確認申請を行います。

    では申請に必要な書類とはどんなものがあるでしょう。代表的なものは以下のとおりです。

    (1)確認申請書

    (2)登記事項証明書

    (3)貸借対照表、損益計算書及び営業報告書

    (4)株主名簿

    (5)常時使用する従業員数を証する書面

    (6)組織図

    (7)研究者・開発者の略歴、担当業務内容

    (8)事業計画書

    (9)法人設立届出書

    (10)設立日における貸借対照表

    (11)設立後の各事業年度の貸借対照表、損益計算書、事業報告書及びキャッシュフロー計算書

    (12)前年度の確定申告書別表1(税理士が署名したもの)

    (13)法人事業概要報告書

    このほか、投資家が優遇措置A、優遇措置Bのどちらを利用するかによって、追加書類が生じたり、事前確認制度を利用するか否かでも必要書類が変わったりします。令和2年の税制改正で一部の書類が削除されたとはいえ、まだまだ申請書類の作成にかなり手間がかかると言えるでしょう。

     申請後の手続きは?

    都道府県に種類を提出してから、2週間〜1カ月ほどで確認作業が行われます。そして、エンジェル税制の企業要件を満たしていることが認められると、都道府県から「確認書」が交付されます。ベンチャー企業はこの確認書を投資家へ提出。投資家が確認書を確定申告の際に税務署へ提出することで手続きが完了となります。

    まとめ

    いかがでしょうか。エンジェル税制の申請は煩雑で、決して簡単ではありません。ですが、しっかり企業要件を把握して書類を揃えれば、資金調達のための頼れる存在となるに違いありません。税制改正によって企業要件が拡大した今、エンジェル税制の利用を視野に入れてはいかがでしょうか。

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    文・猿川 佑

    ジャーナリスト、雑誌編集者。政治・社会問題からライフスタイルやファッションまで、扱う分野は多岐にわたる。

    参考:

    エンジェル税制のご案内|東京都産業労働局

    Q&A-エンジェル税制のご案内|中小企業庁

     

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