公式HP サーブコープブログ知識・ノウハウ「パワハラ防止法」とは? 6つの類型と義務や罰則を解説|いまさら聞けない時事問題 Vol.5

「パワハラ防止法」とは? 6つの類型と義務や罰則を解説|いまさら聞けない時事問題 Vol.5

    日本では敬遠されがちな時事問題ですが、社会の動向はビジネスにも影響します。忙しいビジネスパーソンのために、いまさら聞けない時事問題を分かりやすく解説するシリーズ。Vol.5は使用者である企業が知っておくべき重要な法律、「パワハラ防止法」について取り上げます。

    職場内の地位や権力を利用した嫌がらせ=パワーハラスメント(以下・パワハラ)。これを防止するための「パワハラ防止法」が2020年6月1日に施行されたことをご存知でしょうか?

    法制化によって、どのような行為がパワハラに当たるのかの法的な判断基準ができ、企業(使用者)にはパワハラ防止のための措置が義務化されました。

    しかし、具体的にどんな措置が求められるのか、法に違反するとどうなるのか、まだ理解が広まっているとは言えません。知らず知らずのうちに違反していることがないよう、法律の中身を確認していきましょう。

    パワハラ防止法施行の背景にある問題とは?

    パワハラ防止法というのは通称で、正式な名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下・労働施策総合推進法)」。今回対象となるのは大企業で、中小企業に適用されるのは2022年4月からとなります。

    この法律はもともと雇用対策法という法律でした。しかし2018年、働き方改革の流れで、多様な働き方を促進する労働施策総合推進法に改正。さらに2019年5月、パワハラに関する規定が新たに加わったことで、パワハラ防止法と呼ばれるようになりました。

    今回パワハラ防止法が施行された背景には、パワハラ被害の増加があります。

    2016年に厚生労働省が実施した調査によると、企業が設置している相談窓口に寄せられた相談のなかで、もっとも多かったのがパワハラに関するものであることが分かりました。

    さらに、過去3年間でパワハラを受けたことがあると回答した労働者は全体の32.5%にも上り、2012年に行われた同調査結果の25.3%と比べても、年々、増加傾向にあることは明らかです。

    また、一度でもパワハラを受けると、職場への怒りや不満を感じたり、業務に対する意欲が低下したりする傾向が強いというデータも。つまり、パワハラは労働者にとってはもちろん、企業にとっても深刻な問題になりかねないのです。

    こうした現状を改善するための法律が、パワハラ防止法です。

    パワハラの判断基準となる3つの要件

    今回の法改正では、初めて法的にパワハラの判断基準が示されました。具体的には、次の3つの要件をすべて満たす行為を指します。

    1. 優越的な関係を背景とした言動であること

    まず、どちらか一方が優位にあることを前提とした言動であることが挙げられます。職場の上司と部下のような関係が代表例ですが、地位の差がなくても知識や経験の差で優越的な関係が生じる場合もあります。その場合、同僚間や部下から上司への言動でもパワハラになり得ます。

    2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

    仕事でミスをした部下を叱責する場合は、業務上の指導になるのでパワハラではありません。ですが、「こんなミスをするお前は劣っている」など人格を否定するような言動は業務上明らかに必要がないので、相当な範囲を超えていると判断されます。

    3. 労働者の就業環境が害されること

    これは労働者の働く意欲を失わせたり、業務に専念できないくらい影響を及ぼしたりする言動を指します。

    6つの類型から見えるパワハラの具体例

    また、法律では次の6類型の行為を典型的なパワハラと定めています。

    1. 身体的な攻撃

    殴打、足蹴り、物を投げつけるなど、暴行や傷害に当たる身体的に攻撃を加える行為のことです。

    2. 精神的な攻撃

    相手を侮辱したり、ひどい暴言を浴びせたりするような精神的な攻撃もパワハラになります。例えば、複数人が宛先に含まれているメールで罵倒したり、大勢の人がいる前で叱責を繰り返したりする行為もこれに当たります。

    3. 人間関係からの切り離し

    集団で無視したり、長時間にわたって別室に隔離したりするなど、職場の人間関係から孤立させるような行為のこと。歓迎会など公式な集まりに特定の個人だけ誘わない場合など、いわゆる仲間外れもこれに含まれます。

    4. 過大な要求

    新入社員に対して必要な研修を行わずに過大なノルマを課したり、終業間近に大量の業務を押し付けたりするなどの行為が挙げられます。

    5. 過小な要求

    4とは反対に、嫌がらせ目的で仕事を与えなかったり、退職を促すために本人の役職に見合わない簡単な業務だけを行わせたりする行為が、これに当たります。

    6. 個の侵害

    プライバシーに過度に踏み込むような行為もパワハラになる可能性があります。具体的には、個人情報を本人の了承なしに他の労働者に暴露したり、有給休暇の取得理由に口出しをして取り下げさせたりする、などの行為が考えられます。

    企業に課せられる義務とは?

    パワハラ防止法の施行によって、企業にはパワハラ防止のための義務が課されるようになりました。厚生労働省が発表した「職場におけるハラスメント関係指針」には、次のような具体的なパワハラ防止措置が挙げられています。

    第一に、企業はパワハラ防止のためにどんな方針をとるのか示し、それを社内に周知・啓発すること。例えば、社内報や公式ホームページに、パワハラが禁止である旨と、これに違反した場合の処分などを合わせて掲載するなどし、周知を行うこと。さらに定期的に研修や講習会などを開き、パワハラに対する認識を積極的に社内で共有することも大切です。

    同時に、パワハラの相談に適切な対応をするための体制づくりも必要です。社内にパワハラ相談窓口を設けるなどの措置が一般的ですが、これだけでは足りません。しっかり社内に周知するとともに、研修を受けた専門の担当者を置くなど、相談しやすい環境整備もしましょう。

    そして実際にパワハラの相談を受けた際は、迅速に事実関係の確認と適正な対処を行うことが求められます。パワハラの事実が認められたときは、被害者にカウンセリングや必要な補償をし、加害者には注意や処分を与えるなどの対処が必要です。

    加えて、被害者がパワハラを申告したことを理由に、解雇や異動など不利益な取り扱いをしないことも、企業に課される義務となります。

    パワハラ防止法に違反したときの罰則は

    では、この義務に違反した場合、何らかの罪に問われることはあるのでしょうか? 答えはノーです。パワハラ防止法に違反しても、今現在、罰則が科されることはありません。パワハラ防止法には、罰則規定がないのです。

    ですが、企業に措置義務が定められていることに変わりはなく、法律違反にならないよう遵守しなければなりません。

    もし、労働者から「会社に相談したのに何もしてくれない」などの通報があれば、厚生労働大臣による指導や勧告の対象となり、これに従わない場合、企業名が公表されることもあり得ます。

    そうなれば、「パワハラを放置した会社」ということが世に知れ渡り、企業イメージの悪化、ひいては業績低迷の原因にもなりかねないのでご注意を。

    また、今回の法改正でパワハラ問題が改善されない場合には、新たに罰則規定が設けられる可能性も大いにありますので、しっかりと対策をとっておくべきです。

    中小企業に施行される前に、今からできることは?

    パワハラが具体的に定義付けられたことで、今後は社内での禁止規定が設けやすくなり、トラブルの事前回避やパワハラ行為が起きた際の対処もスムーズになるはずです。

    先述のとおり、2年後には中小企業にもこの法律が適用されることになります。大企業に比べてパワハラの相談窓口を設けている中小企業は少なく、パワハラの実態を企業が把握しづらいという現状もあります。法の施行に備え、今からしっかりと体制を整えていくことが大切です。

    参考:
    (※)厚生労働省|平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査 主要点

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