【FPに相談】年間10万人いる介護離職とは?親の介護で仕事を辞めないために
働き盛りのビジネスパーソンの中には、「介護」はまだ無縁だと考える人もいるかもしれません。しかし、この問題を後回しにしていると、ビジネスやキャリアの面でも取り返しのつかない痛手を負ってしまう可能性があります。
2025年には国民の3人に1人が高齢者、しかも5人に1人が75歳以上の後期高齢者という超・超高齢社会に入ると予測されています。介護や看護のために離職する「介護離職」は増え続け、総務省によると2017年の介護離職者は約10万人。10年前とくらべて倍増しています。
早い段階で介護と向き合えば、介護離職を防げる可能性も。今回は、自身も介護と仕事の両立に苦しんだ経験を持つファイナンシャルプランナー・高橋ゆりさんに、介護への心構えや活用できる行政サービス、個人事業主に向けたファイナンシャルプランについてうかがいました。
介護は突然やってくる?サインに気づくことが大切
――高橋さんご自身も介護で大変な経験をされたそうですね。
私が介護をしたのは母方の祖母でした。いずれ自分の親を介護するんだろうと漠然と考えてはいましたが、祖母のお世話をするとはまったくの予想外。介護は予期せぬタイミングでやってくるものです。
私は当時、40代前半。生命保険会社でファイナンシャルプランナーとして働いていました。認知症になった祖母の世話をするため、神奈川県横浜市の自宅から約1時間かけて小田原市に連日通っていました。祖母は母と妹夫婦と同居していましたが、妹には小さい子どもがいますから「自分がやらなきゃ」と。
祖母から「おじいちゃんがいない!」と電話が入ることもありました。祖父はずっと前に亡くなっているのですが、電話越しに説得することはできないので、深夜でも祖母に会うため小田原に行き、朝はそのまま仕事へ直行。仕事を休んだり、半休を取るようになる状態が半年ほど続きました。
――やはり、介護は突然やってくるケースが多いですか。
後から振り返れば、祖母には以前から認知症の気がありました。コンビニで「お釣りが足りない」と言って店員を困らせてみたり、ささいなことでご近所とトラブルを起こしてみたり……。でも、家族は祖母が認知症だとは認めなかった。介護は同居する家族の生活を大きく左右するものです。だから直視したくないと、いろいろな言い訳をつけて介護から逃げている人は少なくありません。しかし、日常生活の中に転がっているサインに気づくことが、計画的な介護にもつながります。
介護はひとりで背負わない、が鉄則
――仕事と介護で、高橋さん自身が体調を崩すことはありませんでしたか。
実はそんな中、突然、父が脳梗塞で倒れたんです。命は助かりましたが入院やリハビリが必要で、私も2〜3カ月は父にかかりっきりに。その間にも祖母の認知は進行し、小田原の実家と父の病院、自分の仕事を行き来しながらの生活が始まりました。
私の身体は悲鳴を上げていたと思います。でも、「自分がやらなきゃいけない」という使命感があってか、自分では気づきませんでした。
ある日、不意に店のガラスに映った自分の顔を見て、「私ってこんなに疲れた顔してるの?」とびっくりしたことがありました。そして、ふと横を見ると、たまたま「抱えないで 介護」と書かれたポスターが。
これを見て、「もしかして自分も介護を抱え込んでいるのかも」という思いに初めて至りました。すぐにポスターに掲載されていた番号に電話をし、「地域包括支援センター」の連絡先をもらいました。センターの担当者に介護の現状を話すと、「ひとりで抱えていてはダメ」「すぐに会いましょう」と言ってくれて。電話を切った途端、張り詰めていた糸が切れたかのように、その場で号泣していまいました。
使命感が強い人ほど他の誰にも迷惑をかけないことばかり考えてしまいますが、介護はひとりで背負ってはダメ、というのが鉄則です。
「介護休暇」や「介護休業」も活用する
――介護で休みがちになっていた状況について、会社は理解を示していましたか。
私の場合、会社の上司が介護に理解のない人でした。本人にも介護が必要な親がいたのにすべて奥さん任せだったとか。事実だとすれば、介護の大変さが分からなかったのでしょう。仕事を休みがちだった私に対しても、「来月は介護で休まないだろうな?」「介護をやって何かお前のキャリアのためになるのか?」といった言葉を平気で投げかけてきました。
ファイナンシャルプランナーという仕事はやりがいもあり、その会社で勤め上げたいと思っていました。しかし、福利厚生制度があることも知らないまま、有給を使い切って退職を余儀なくされました。事前に知っていれば「介護休暇制度」を利用して、介護離職を防げたのかもしれません。
――生命保険会社を退職された後は、どうしたのですか。
介護で仕事を失った後、仮に介護から解放されてから職探しをしても、5〜10年のブランクがあれば再就職は難しい。そうして社会復帰に苦しんでいる人は少なくありません。私の場合はたまたまフリーランスの仕事がすぐに見つかったので、ヘルパーの手を借りつつ、仕事を請け負っていました。
「地域包括支援センター」など専門家を頼る
――地域包括支援センターに連絡を入れてから、介護生活はどう変化しましたか。
センターの担当者がまず、祖母の様子を見に来てくれました。最初は祖母も警戒心を強めていましたが、一週間くらい毎日顔を合わせることで、次第に打ち解けました。また、自分流でなんとか続けてきた介護の現場に専門家が入ってくれたことで、精神的に楽になりました。
そして、公的な介護保険サービスについても教わりました。介護について何も知らなかったので、まさか自分がそうしたサービスを利用できるとも考えていませんでした。事前にこうした知識があれば、もしかしたら会社を辞めなくて済んだのかもしれません。
介護離職を防ぐために覚えておきたい心得まとめ
①家族の健康や精神状態の変化を見落とさない
②介護生活がスタートしたらひとりで背負わない
③有給だけではなく、「介護休暇」や「介護休業制度」も活用する
④「地域包括支援センター」など身近にいる専門家を頼る
介護生活が実際にスタートする前に覚えておきたい心得をまとめました。後編では、国や自治体の制度、勤務先の福利厚生など、介護離職を防ぐための知識や、個人事業主に向けた「介護とお金」についてご紹介します。
参考URL
全国の地域包括支援センター一覧
平成29年就業構造基本調査
取材協力・監修 高橋ゆり氏
公共工事を請け負う会社で経理を経験後、投資信託専門会社、大手生命保険会社での勤務を経てフリーランスとなる。現在はライフプランを中心に、得意分野である運用や投資、経験のある介護・相続のセミナーを中心に活躍中。著書に自身の経験を活かした『”元ヤンFP”が教える 資格を死角にしない資格活用法』がある。