【FPに相談】仕事と介護の両立には早めの準備がおすすめ!利用できる公的サービスとは
ますます加速する超高齢社会。2025年には国民の3人に1人が65歳以上になり、その後も高齢化率は右肩上がりに増えていくことが予想されています。働き盛りの若い世代が介護へ関わる機会も増えていくことは避けられません。
前編では、突然、祖母の介護を担うことになったファイナンシャルプランナーの高橋ゆりさんに、介護と仕事を両立する難しさと介護離職を防ぐための心得をお聞きしました。
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後編では、介護を始めたら利用できる公的サービスや、個人事業主やフリーランスこそ早めの行動が必要である理由などについてうかがいました。
どのくらいかかる?「要介護認定」までの流れ
――介護について事前に知っておくべき知識や公的サービスについて教えてください。
まず初めに、キーワードとなる次の3点を知っておいてください。順を追ってご説明します。① 要介護認定 ② 介護保険サービス ③ 介護休暇、介護休業
全ての人は40歳に達したときから「介護保険」に加入し介護保険料を支払いますが、同時に「介護保険サービス」を利用することができます。介護保険サービスを利用するためには、まず「要介護認定」を受ける必要がありますが、それによって「要介護」なのか「要支援」なのかを市町村の担当者が判定します。
――申請から認定までどのくらいの時間がかかるものですか?
事前知識がない私の場合は、認定されるまでに3〜4カ月かかってしまいました。その間も仕事は休めないので、やはり早めの行動が大切です。
要介護認定を受けるには「主治医意見書 」が必要です。かかりつけの医者がいればいいですが、いない場合は一から探すことになります。認知症の場合、精神科、神経内科、老年科に専門医がいることが多いですが、それさえあまり知られていませんよね。前編でお話しした 「地域包括支援センター」でアドバイスをもらえることもありますが、とにかく主治医探しにも時間がかかります。
また、「主治医意見書」とは別に、自治体の担当者による聞き取り調査も行われます。私が祖母の介護を始めた当時、何も知らなかった私は、家に調査員さんがくるということで部屋を綺麗に片付け、祖母の身なりも綺麗に整えてしまった。でも、これがよくありませんでした。
後になって知ったのですが、「部屋が片付けられない」「身なりを整えられない」というのも介護度の判定基準に含まれていたんです。結局、祖母は「要介護度1」と認定されたのですが、私としては、やはり低く見積もられたという印象があります。
超高齢社会の今、自治体は限られた財源を必死に節約しようとするのも無理からぬこと。でも、被保険者はその状態に見合ったサービスを受ける資格がありますから、適切なサービスを受けるためにも、こうした知識を事前につけておくことは重要ですね。
「介護保険サービス」とは?①居宅 ②施設 ③地域密着型
――介護保険サービスとはどんなサービスがあるのですか?
要介護認定を受けた後は、ケアプランと呼ばれる「計画書」を介護保険の専門家であるケアマネージャーと一緒に作成。このプランを作成してようやく、サービスの利用開始となります。受けられるサービスは要介護度によって変わってきますが、大きく分けて「居宅サービス」「施設サービス」「地域密着型サービス」の3種類があります。
居宅サービス | ホームヘルパーなどが自宅を訪問。買い物、食事、リハビリ、入浴などの支援を受けることができる。 |
施設サービス | 「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」で食事、排せつ、入浴などのサービスを受けることができる。 |
地域密着型サービス | 居宅サービスと施設サービスの中間にあるもので、要介護者が住んでいる地域で提供されるサービス。 |
居宅サービスは、自宅暮らしの被介護者へ向けたもので、ホームヘルパーさんたちによる訪問サービスや施設への通所サービス、施設への短期的な入所サービスなどがあります。
施設サービスは、特別養護老人ホームなどの介護老人福祉施設や介護老人保健施設などに一定期間以上入所し、施設によっては介護だけでなく、医学的なリハビリなども受けられるサービスです。
地域密着型サービスは、介護度が重くなっても住み慣れた場所で暮らせるようサポートしてくれるサービスで、居宅サービスと違い、24時間対応の訪問介護を受けられるなど、訪問回数などの制限がないという特徴があります。
個人事業主やフリーランスは特に注意が必要!なぜ?
――高橋さんは会社員時代から介護をされていましたが、フリーランスの場合は事情が変わりますか?
そうですね。個人事業主は特に大変だと思います。介護の時間がやりくりしやすいという点ではいいかもしれませんが、仕事を減らすとダイレクトに生活が困窮してしまうおそれがあります。
最近の企業は、「介護休暇制度」を整備し始めています。また、介護が理由の退職であれば復職できると定めている企業もあります。しかし、個人事業主だとこうした福利厚生もありません。だからこそ、いざという時に活用できるよう、介護保険サービスについて事前に学んでおいた方がいいと思います。
「親の介護は子どもが行う」はひと昔前の常識
――介護への理解や事前の準備が大事だということを実感しますが、まず、どこから準備をすればいいのでしょう?
「親の介護は子どもがする」というのはもう昔の話だと思います。今の若い世代は、明日もどうなるかわからない厳しい時代を生きています。「結婚して子どもを持つことさえ不安だ」と考えている人が多い中、誰かを介護するなど、とてもできることではないですよね。
結論は、「両親の介護は両親のお金でやる」が正解だと思います。ポイントは、介護の話を早めにすること。「まだそんな話は早いよ」なんて笑っていられるうちに、介護が必要になったら自宅介護がいいのか、施設に入るほうがいいのかといった希望を本人に聞く。親がどんな老齢期を送りたいのか、できるだけ詳しく聞いておくべきです。
そして、お金がない場合はどうしようと考えているのかを本人に聞いたり、またはきょうだいがいれば話し合ってみてください。私の場合は、両親と同居している妹が介護に時間を割く、その代わりに離れて暮らしている私ができるだけ介護費用を捻出する、というように話し合いました。
自分自身の介護は?「長生きに備えた準備」がマスト
――自分自身の介護を見据えて準備できることはありますか?
まだ気が早いと思っても、今からでも少しずつ、介護費用を貯めておいたほうがいいと思います。今、日本で100歳以上の男性は約8000人、女性は約6万1000人もいるといいます。10年後、20年後はもっと増えているでしょう。寿命が延びるということは、介護が必要な期間も増えるということ。長生きに備えた準備が必要です。
今回は公的な介護保険の話をしましたが、「民間介護保険」というものもあります。収入や貯金で介護費用をまかなえない人や、面倒を見てくれる家族がいない、家族に負担をかけたくない人などは、加入しておくと安心です。
介護は大変ですが、「介護をやってよかった」という声の方が圧倒的に多いと思います。親と一緒に過ごす最期の時間でもありますから、いざという時に自分の生活が苦しくならないよう、事前の準備を心がけてみてください。「介護は親に対してできる最後の親孝行かもしれない」と思っています。
取材協力・監修 高橋ゆり氏
公共工事を請け負う会社で経理を経験後、投資信託専門会社、大手生命保険会社での勤務を経てフリーランスとなる。現在はライフプランを中心に、得意分野である運用や投資、経験のある介護・相続のセミナーを中心に活躍中。著書に自身の経験を活かした『”元ヤンFP”が教える 資格を死格にしない資格活用法』がある。