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BCP(事業継続計画)とは?BCP策定の6つの手順とポイントを解説

2022年1月12日、感染対策として、東京都では、未策定の企業に向けて事業継続計画(BCP)の策定の呼びかけがありました。

このように、大地震や感染症の拡大など、非常時の業務継続に必要となるBCP(事業継続計画)。業種にかかわらず策定しておいた方が望ましい計画ですが、なかでも中小企業にこそ備えが必要です。BCPで何を優先すべきかの内容は企業によって異なり、また公的なテンプレートも存在しません。そのため、BCPの完成度は策定した企業や担当者により大きなばらつきがあります。では、自社にあったBCPを用意するにはどうすればいいのでしょうか。

本記事では、BCP策定アドバイザーの高荷智也さんに、BCPを策定する目的や手順、ポイントについて分かりやすく解説していただきました。またBCP対策にもつながるテレワークを意識したオフィス選びにおすすめの「ハイブリッドオフィス」についてもご紹介します。

BCPとはなにか

BCPとは、非常時に対する企業の備えをまとめたドキュメントのこと、あるいはこのドキュメントを活用するために構築された各種計画の集合体を指す概念です。

BCPはいつ使うのか

BCPは大地震や浸水害、感染症パンデミックなど、「平時の体制では業務を行えない」事態に対する備えとして作成します。BCPを策定すると、「何かしらの理由で」ライフラインや流通網が停止した場合の備えにもなるため、結果としては想定外の事態である未知の災害、またはテロや戦争への備えにもつながります。

BCPが必要な理由

  • 「防災対策」で守れるのは自社のサービスだけ
  • 付き合いのある企業の業務がストップしたら?
  • 社内外のリソースを守るためにBCPが必要

従来、企業の災害に対する備えは「防災対策」が担っていました。しかし防災対策で守ることができるのは「自社」のみです。サプライチェーンの複雑化や業務のアウトソーシング化が進む昨今、自社が無事だったとしても、付き合いのある企業の業務がストップしてリソースを調達できなくなれば、結果的に業務が停止する恐れがあります。

また逆に、自社の業務停止が広範囲に影響を及ぼす場合、社会的な責任を問われることにもなります。このため、社内を守る防災対策だけでなく社外のリソースを守るためのBCPが求められるのです。

高荷さんアドバイス

小規模・中小企業こそBCPの策定を

手持ち資金に余裕のある大企業は災害による損害が生じても、ある程度は金銭で解決することが可能です。そのため、非常時に即窮地に陥るという可能性は低いでしょう。しかし小規模・中小企業の場合、そのまま倒産するという可能性が相対的に高くなります。そのため、体力に余裕のない企業こそBCPを策定し、非常時に備えることが重要です。

「完璧なBCP」を作ろうとすると、おおむね半年~1年程度の作業期間を要します。とりわけ小規模・中小企業にとっては負担の大きなプロジェクトになるでしょう。もし自社にBCP策定のノウハウが不足する場合は、地元の金融機関による専門家派遣サービスや、商工会議所のエキスパートバンクなどで専門家を紹介してもらえる場合がありますので、問い合わせをしてみるのもおすすめです。

BCPを策定する3つの目的とメリット

BCPを策定する目的は大きく3つあります。BCPを策定することによって得られるメリットや策定する時の注意点についても解説します。

1) 直接的な損害を減らす
2) 契約遵守と社会的責任の実行
3) マーケットの維持と非常時の競合対策

1)直接的な損害を減らす

 ・従業員や顧客の安全を守る

まずBCPにおいて、「防災対策」は重要な要素です。全ての事業拠点に対し、自然災害などの物理的な脅威から、従業員および顧客の生命と安全を守るための対策が必要です。

・被害を減らして復旧コストを削減する

また、人だけでなく、建物、設備、車両などに対しても防災対策を行い、物理的な被害を減らすことができれば、復旧にかかる直接的なコストを削減することができます。

・機会損失による売上減少を避ける

被害が少なければ事業の早期再開を行うことができるため、営業停止による機会損失を最小限に抑えることにつながります。

2)契約遵守と社会的責任の実行

・SLAや契約の遵守

提供しているサービスにSLA(サービスレベルアグリーメント)を設定していたり、納期や品質に対する強い契約を結んでいたりする場合、自然災害といえども事業水準の低下が許されない場合があります。この場合、BCPは「念のため」の備えではなく、サービスコストに折り込む「通常業務」として作成することが求められます。例えば拠点を物理的に分割し、ホットスタンバイさせるなどが具体的な対応例です。

・サプライチェーンの維持

分業が進んだ製造業などでは、ひとつの企業の操業停止がサプライチェーン全体の停止につながる場合があります。また他社の業務をアウトソースとして引き受けている場合も、停止時の影響範囲は広域にわたります。こうした社会的責任の大きな事業を行っている場合は、BCPの存在が特に重要になります。例えば出荷在庫などを多めに確保し、一時的な操業停止に備えるなどが具体的な対応例です。

3)マーケットの維持と非常時の競合対策

・競合にシェアを奪われないための対策

自社が被災する一方でライバル企業は平常どおり、となった場合は市場のシェアを奪われるリスクがあります。特に差別化が難しい日用品や汎用製品、また同一商圏に類似サービスを提供する店舗が複数ある場合などは顕著です。できるだけ早い営業再開、または再開の目処を取引先に伝えるための準備が必要となります。

・競合のシェアを奪うための対策

逆に競合が被災する一方、自社が平常どおりであれば、市場のシェアを奪うための営業攻勢をしかけるチャンスになります。もちろん、こうした活動には倫理観が求められるので慎重な行動が必要です。逆に、同じ業種として競合を支援したいケースもあるでしょう。いずれの場合も自社が平常どおりであることが前提となりますので、やはり事業を守る計画は必要です。

高荷さんアドバイス

BCPは万能か? 資金繰り準備の計画も

BCPは万能ではありません。想定していなかった事態、あるいは想定を超える被害が生じた場合には対処することができない可能性があります。BCPはあくまでも被害を減らすための準備であり、被害をゼロにできなかった場合のリスクファイナンスをあわせて計画することが不可欠です。

BCPを構成する4つの要素

 さて、ここまで「BCP」という言葉を用いて参りましたが、BCPには「概念」としての広い意味合いと、「書類」としての狭義の意味合いの2つが含まれています。最終的な目的はいずれも「事業を守る」ことですが、策定時における考え方は少々異なります。まずは広い意味合い、BCPを構成する要素について説明します。

・広い意味での「BCP」

概念としてのBCPには、非常時に必要なさまざまな計画が含まれています。具体的な構成要素として、次のような項目・計画があげられます。

「防災対策」… 従業員と顧客の生命と安全を守るための計画、建物や什器に施す物理的な対策や、発災時に参照する防災マニュアル作りが該当
「事業継続戦略」… 発災時に業務を止めない、あるいは早期に復旧をするための計画(「狭義のBCP」にあたる)
「初動対応計画」… 事前に準備した防災対策や事業継続戦略を、発災時に利用するための準備、安否確認や対策本部の設置といった手順が含まれる
「保守運用計画」… 策定したBCPを常に使える状態にするため、定期的に行う更新作業や訓練計画など

高荷さんアドバイス

小規模・中小企業は「防災対策」と「初動対応計画」から

これらの4つの要素を含む「事業を止めない計画全般」が、広い意味での「BCP」となります。いきなり全ての項目を網羅した計画を策定すると作業が膨大になるため、中小零細企業の場合は特に「防災対策」と「初動対応計画」から検討を進め、最終的に「事業継続戦略」の深掘りを行うと無理なくステップを進めることができます。

BCP策定の6つの手順とポイント

では実際にBCPを策定する手順とポイントを解説していきます。

①プロジェクトの立ち上げとチームの設定

まず、BCP策定を行う担当者およびチームを設定します。大企業あるいは、非常時にも高い操業度を求められる企業の場合は、選任の担当者や部署が設定される場合もありますが、管理部門や総務部門の担当者が兼任するのが一般的です。

BCP策定にかかる時間は、企業(事業)の規模により変わるものの、先に述べたとおり、おおむね数ヶ月~1年程度。中長期的な取り組みが必要なので、情報共有の方法や定例会議の設定などを行い、プロジェクトが立ち消えしないような工夫が必要です。

②災害の想定。まずは大地震から

次にBCP策定の前提として、そもそも「何に備えるのか」を定めましょう。一般的には次のような災害をBCPの対象として設定します。

・大地震(揺れ・地震火災・津波・土砂災害)
・台風・豪雨(暴風・浸水害・土砂災害)
・火山の噴火(近距離影響:噴石・火砕流・溶岩流、遠距離影響:降灰)
・感染症のパンデミック

上記の災害を対象として、それぞれ生じる物理的・人的な影響と、あらゆる災害で生じるインフラ停止による影響を、BCPの対象とします。なお、一度に全ての災害を対象とすることが難しい場合は、まず大地震を対象とした計画を策定すると、多くの要素に対する備えができますのでおすすめです。

③防災対策ができているか確認を

「狭義のBCP」=事業継続戦略を策定する前に、全ての事業所・店舗・工場などにおける「命を守る防災対策」ができているか確認します。

特に行うべき項目は以下の通りですが、全てを同時に行うことが難しい場合は、最低でもオフィス内の地震対策だけでも実施してください。転倒時、人に直撃する什器や戸棚などを固定するだけでも大きな効果が得られます。

1)全ての拠点を確認

大地震の揺れに対応する準備と、暴風の影響による建物対策はあらゆる拠点で必要になります。建物の耐震化と強風対策、什器や設備の固定、ガラスの飛散防災や初期消火対策などを行います。

2)ハザードマップで対象拠点を調べる

ハザードマップで、津波・浸水・土砂災害・噴火などの直接的影響を受ける拠点(フロア)については、避難計画が必要です。避難場所の確認、移動ルートの設定、個人向けの非常持ち出し用品(個々人に事前配布するヘルメット・ライト・軍手・水と食料など)および業務継続に必要な重要物品を守ったり移動させたりする準備を行います。

3)大都市にあるオフィスで実施

東京・大阪・名古屋などの大都市中心にオフィスがある場合は、「帰宅しない準備」が必要になります。特に東京の場合は「東京都帰宅困難者対策条例」により、大地震発生から3日程度従業員を帰宅させない準備が企業の努力義務として課せられています。オフィス内の地震対策、防災備蓄品の用意、家族との安否確認の準備などを行います。

④「事業継続戦略」を策定

いわゆる「BCP本体」となる、事業継続戦略・復旧計画を策定します。これが狭義の意味合いで使われる書類としてのBCPとなります。具体的には、想定される災害が発生した際に継続すべき事業と業務を定め、これに必要な「モノ・コト」を、具体的に守ったり代替したりする計画を策定します。

小規模な会社で経営者が社内の全てを掌握している場合は、いきなり結論から作成をすることもできますが、一般的には業務内容が細分化されていますので、次の手順で分析作業を行う必要があります。

1)BIA(事業影響度分析)の実施

想定する災害が事業に与えるインパクトを分析することをBIA(事業影響度分析)と呼びますが、BIAを実施するためには「どの事業」を「どのくらいの水準」で維持したいのかという前提条件をあらかじめ設定します。

中核事業の特定

想定した災害が発生した状況で、継続したい事業・継続しなければいけない事業、すなわち「中核事業」を定めます。

目標の設定

中核事業を、その災害状況下において、「どのくらいの水準」で「いつまでに提供」するのかを定めます。

重要業務の設定

「この水準の中核事業」を行うために必要な業務・やるべき仕事、「重要業務」を定めます。緊急性の低い業務などは外し、必須となる仕事のみを残します。

経営資源の特定

「重要業務」の遂行に必要な社内外の経営資源(人・物・情報・外部リソース)を全てリストアップします。

ここで抽出された「社内外の経営資源」が、BCPで守るべき具体的な対象物となります。

2)RA(リスクアセスメント)の実施

次にRA(リスクアセスメント)を実施しますが、RAではBIAで抽出した社内外の経営資源をどう守れるのか、対策の方向性を定めます。想定する災害でどのような被害を受けるのか、その被害下で業務を行うことができるのかを検討し、対策の方向性を定めます。

必要な経営資源が被る被害を想定

想定した災害が発生した際に、リストアップされた経営資源がどのような被害を受けるのかを想定。例えば大地震が発生した際、継続すべき業務に必要な社内外の経営資源が、揺れ・津波・土砂災害などの被害を受けるのかどうかを個別に判断します。

業務継続の可否を検討

その被害が生じている状況下で、業務を継続できるのかどうかを検討。前述の大地震による被害想定の結果、業務継続に影響があるのか、あるいはそのままでは業務が行えないのかを検討します。

業務継続の方向性を検討

業務継続に支障が無ければ細かい対策は不要ですが、継続が難しいと判断される場合は具体的な対策の方向性を定めます。被害が想定される経営資源について、被害を受けないための「防災対策」を行うのか、または被害を受けることを前提にした「再調達計画」を行うべきなのかを検討し、これを方向性とします。

ここで定めた、経営資源ごとの「防災か再調達か、あるいは両方か」が、BCPで行うべき具体的な対策方針となります。

3)個別計画(事業継続戦略)の策定

BIAで抽出された「非常時に必要な経営資源」と、RAで定めた「経営資源を守る方針」が明らかになったら、具体的な対策を検討します。人・建物・資機材・情報などの社内経営資源と、仕入・外注・ライフラインなどの社外経営資源について、想定される災害に対する防災対策と、被害が発生した場合の代替手段・再調達計画の方法をそれぞれ検討し、項目ごとに実施しましょう。

物理的な対策の実施や予備の資機材を調達するなどのハードウェア的な対策、また非常時の手作業手順をマニュアルにまとめるなどのソフトウェア的な対策の両面の実施が必要になりますが、この対策の集合体が、狭義のBCPのドキュメントとなります。

⑤初動対応計画の作成

次に、防災対策で準備した資機材を使ったり、BCPで策定した復旧計画を実施したりするために、BCPを「非常時に使える」ようにする「初動対応計画」を策定し、社内へ共有します。

1)防災マニュアルの作成

防災対策を発災時に実行する準備として、防災マニュアルなどを作成します。これは、BCP担当者「以外」も発災時に防災活動を行えるようにするためのもので、例えば大地震などが発生した際の救助・応急手当・避難誘導、火災や津波などに関する情報収集、ライフライン停止時の代替機材や備蓄品配付などをまとめたドキュメントです。これは平時から社内に共有し、定期的な訓練などを通じて浸透させることになります。

2)情報収集マニュアルの作成

津波・火災・洪水などが発生する状況下において、事業所からの立ち退き避難が必要かどうかを判断したり、対策本部を招集するかどうかを定めたりするには情報収集が大切です。そのための計画を作成しましょう。

まず、ハザードマップを用いて拠点周辺で注意が必要な災害を把握し、発災時にこれらの状況をチェックします。また社内外の経営資源をリストアップしておき、すばやく被害状況の確認を行うためのチェックリストなどを準備します。

3)対策本部設置マニュアルの作成

情報収集の結果、社内外の被害が軽微であればBCPを発動する必要はありません。被害が甚大または判断できない場合は、対策本部を設置して非常時体制の業務を行うことになります。

具体的には被害を免れた経営資源を、BIA(事業影響度分析)で設定した「中核事業」に集中させ、特に重要な業務を優先的に行える体制を構築します。この際の指揮に必要な対策本部のメンバーリスト、社内またはオンライン上の本部設置手順、BCP発動の基準などを定め、まとめておきましょう。

⑥保守・運用の計画をまとめる

BCPの策定が一通り完成したら、最後に保守・運用の計画をまとめます。BCPは作って終わりのドキュメントではなく、5年後・10年後、あるいは策定した担当者が退職した後にも機能することが求められる計画です。いつ災害に見舞われても準備した内容を有効に活用できるよう、BCPを常に使える状態にする活動が求められます。

1)前提の見直しを行う

BCPの更新を行う際には、その前提が適切であるかを確認する必要があります。災害想定に用いたハザードマップが更新されていないか、直近の災害トレンドが変わっていないか。また守るべき事業の優先順位や、非常時に行うべき業務の内容が変わっていないか、その業務に用いる資機材は従来どおりか、などを定期的に確認します。

2)内容を更新する

前提に問題が無ければ、内容が最新であるかを確認し、古い場合は更新します。防災用に準備した防災資機材、各種設備、また備蓄品の賞味期限が超過していないかなどの確認。各種ドキュメントの内容、安否確認リストの連絡先、対策本部のメンバーリスト、発災時に用いるマニュアルの内容が最新状態かなどを定期的にチェックします。

3)訓練・演習計画を立てて実施する

BCPで定めた防災対策や非常時の連絡網を機能させるため、定期的に防災訓練や初動対応演習を実施しましょう。例えば、災害時に必要な知識や手順を従業員個々人に学ばせるための訓練として、安否回答訓練、避難訓練、救命講習などを実施する。あるいは、組織としての災害対応力を維持するための訓練として、安否集計チェック、本部立ち上げ演習、情報収集や共有の訓練などを行う必要があります。こうした訓練計画をBCPに盛り込み、定期的に実施できるようにします。

BCP対策としてテレワークを導入するなら、中小企業向けの「ハイブリッドオフィス」がおすすめ

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文・高荷智也

ソナエルワークス代表。BCP策定アドバイザー。備え・防災・危機管理に関する各種専門家サービスの提供や講師業、執筆業、コンサルティング業、メディア出演業などを行っている。

 

※本記事は2020年6月30日に公開した記事をリライトしたものです。

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