相手をその気にさせる、相手のやる気を引き出す“名経営者の格言”から学ぶビジネスセンス
以前載せた記事で、「周りの人を自分の味方にしていくためには、『理』と『情』の両面で相手の納得を得ることが大事だ」と書きました。今回はその続きを考えてみたいと思います。
スティーブ・ジョブズ氏は、アップル社の社長に、当時ペプシコーラの社長であったジョン・スカリー氏を引き抜こうとし、18か月にわたって説得工作を続けたそうです。その説得を試みる中で、おそらくジョブズ氏は、「いかにアップル社が意義深い事業を展開しようとしているのか、いかに偉大な役割をスカリー氏に任せようとしているのか」を説いていたのだと思います。
それは、「理」の面からの説得だったと言えるでしょう。しかし、説得に18か月もかかったということは、そうした真正面からの正攻法の説得が功を奏さなかったことを表しています。そして、あの有名な名セリフが、ジョブズ氏から語られるのです。
「君はこのまま一生砂糖水を売り続けたいか?それとも世界を変えたいか?」
この殺し文句が決定打になったのかどうかは定かではありませんが、1983年、スカリー氏はアップル社の社長に就任します。30年以上も経った現在も、ジョブズ氏のこの言葉が伝説のように語られています。それほどのインパクトがあったということであり、これこそ、相手の「情」に働きかけて成功した典型例ではないでしょうか。
論理的に相手に働きかけることは、状況判断さえ誤らなければ、誰しもできることのように思います。しかし、理屈だけでは、人は動かないものです。そこで相手の感情に働きかけていく必要があるわけですが、ジョブズ氏の名セリフが示すように、「情」に訴えかけるにはある種のセンスが必要です。
人を動かすようなセリフを思いつくセンスを磨くには、たくさんの名言に触れることも大事です。名言、格言を自分なりにアレンジして、いざという時の決めセリフを考えておくと、役に立つかもしれません。
そこで今回は、名経営者が残した名言を集めてみました。相手をその気にさせる、相手のやる気を引き出す——そうした名言の中から自分に応用できそうなセリフを見つけて、説得上手を目指してみてください。
■「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」
これは、阪急電鉄の創業者、小林一三氏の言葉です。多くの人は、初めから希望通りの格好いい仕事に就けるわけではありません。しかし、格好いい仕事に就けなかったからといって、そこでくじけてしまっては未来は開けません。与えられた仕事でも、そこを極めれば、望みも開けてくるのだということを訴えています。
■「明確な目標を定めたあとは、執念だ。ひらめきも執念から生まれる」
インスタントラーメンの生みの親で、日清食品の創業者、安藤百福氏の言葉です。目標を見失わないことの大切さを表している名言です。安藤氏自身が、インスタント麺の開発に執念を燃やしていたからこその、名言だと言えるでしょう。
■「諸君にはこれから3倍働いてもらう。役員は10倍働け。俺はそれ以上に働く」
元経団連会長の土光敏夫氏が、1965年に、当時経営危機に陥っていた東京芝浦電気の社長に就任した時のスピーチです。従業員に厳しい経営者で有名だった土光氏が、自らの覚悟を示し、会社全体に緊張感を持たせた名言です。
■「致命的にならない限り失敗はしてもいい。やってみないとわからない。行動してみる前に考えても無駄です。行動して修正すればいい」
これは、ファーストリテイリング会長兼社長、柳井正氏の言葉です。この言葉どおり、行動を起こせば、想定外のことに直面することはしばしばあります。しかし、そこでたとえ失敗したとしてもリカバリーできる段階で修正しさえすればいいのであって、失敗を恐れて行動を起こさないことを戒めています。「やってみないとわからない」とは、そういうことなのです。
■「未熟なうちは成長する。成熟すれば、あとは衰えるだけだ」
マクドナルドをチェーン展開した起業家、レイ・クロック氏の言葉です。未熟であることは、決して恥ずかしいことではない。未熟だからこそ挑戦できることがある、と言っているのでしょう。そこには、常に、より上を目指すことの大切さを感じさせるものがあります。