LINEも開始した「信用スコア」とは? 最新アプリを紹介、中国版には不安の声も
「信用スコア」という仕組みをご存じでしょうか? オンライン上に蓄積された個人の行動データをもとに、その個人の社会的信用度を数値化する仕組みです。国策として取り組んでいる中国ではすでに人々の生活に浸透していますが、2年ほど前から日本でも普及の動きが。最近はLINEも「LINE Score」の提供を開始。今回は、中国や日本の事例を紹介しながら、「信用スコア」の基本について解説します。
学歴や人脈、中国が採用する信用データとは
中国では政府の後押しもあり、2016年に「信用スコア」が誕生。個人が自分の信用度を上げることで健全な社会構築を促すという国家戦略のもと、「アリババ」や「テンセント」といった巨大IT企業が運用に乗り出しました。
アリババグループの子会社「アントフィナンシャル社」がスタートしたスマホ決済アプリ「Alipay(アリペイ)」のユーザーは5億人を超えます。電子マネーでの決済ができるだけではなく、金融や保険などを軸としてさまざまなサービスを会員に提供。そうしたユーザーのあらゆるデータを「信用スコア」にひもづけていくのです。
一般的に、信用度を測るデータとして採用されているのは次の通り。個人の交友関係や趣味までが項目に入っているようです。
- 身分特質(年齢や学歴や職業など)
- 履約能力(支払いの能力)
- 信用歴史(クレジットカードの返済履歴を含む信用履歴)
- 人脈関係(SNSなどでの交流関係)
- 行為偏好(趣味嗜好や生活での行動)
低スコアには罰則も?進学や就職、結婚にも影響
「信用スコア」の算出には、企業が保有するデータだけではなく、中国政府が公開している「契約不履行者リスト」なども活用。これらを高度なAI(人工知能)技術とクラウド、IT技術を用いて計算し、350~950点の幅で点数が与えられます。
高得点を得たユーザーは、シェアサービスなどのデポジット(保証金)免除、出国手続きの簡素化といったメリットが。中には高い点数を保有するユーザーしか参加できない「婚活サイト」もあるといわれ、「信用スコア」は進学や就職、結婚にも影響を与えるような存在になっているのです。
ただ、犯罪に手を染めたり、交通違反をしたりすれば、月に一度更新されるスコアが一気に低下することも。公共交通機関による移動の制限やアリババ系サイトの利用に制限が設けられるなど、“罰則”を受けることもあるのです。
さらには、K-POPファンの行き過ぎた行動やネットゲームでの反則が「信用スコア」の評価に反映された事例もあり、政府による独裁的な「監視社会」になるといった懸念の声もあがっています。
2019年6月、LINEが「LINE Score」を開始
では、日本はどうでしょうか?ソフトバンクとみずほ銀行が2017年に「J.Score」を始めたほか、LINEやヤフー、ドコモが2018年、「信用スコア」に関する取り組みに乗り出すと発表。2019年6月には、LINEが「LINE Score」の提供を開始しました。
進学や就職など、日常生活に大きな影響を与えている中国のケースをみると不安を感じる方がいるかもしれませんが、J.Scoreが運用を始めた「AIスコア」やLINEの「LINE Score」は少しおもむきが違っています。
「AIスコア」は、みずほ銀行とソフトバンクが保有するビッグデータやAI(人工知能)技術を活用。勤務先や収入などに関する17の質問に回答するだけで、ユーザーのAIスコアが算出されるようになっています。スコアが高ければ、J.Scoreから低い金利で融資を受けられる仕組みになっていますが、必ずしもスコア通りの金利になるわけではなく、数字はあくまでも目安。最終的には融資担当者がより詳しい審査を行い、金利が決まるといいます。AIスコアの診断は無料。氏名や住所など個人を特定するような情報を入力する必要もないため、気軽に試せるのはおすすめです。
一方、「LINE Score」もライフスタイルに関する15の質問に回答するだけで、AIがほかのLINEサービスの利用状況をもとに100~1,000点のスコアを算出。今の段階では、スコアに応じたキャンペーンや特典をユーザーに提案するという仕組みです。
日本にマッチした「信用スコア」の考え方
「信用スコア」について、中国での仕組みと日本での動きを見てきました。まだ「信用スコア」の歴史は浅く、これから改善の余地とその立ち位置について議論されていくことでしょう。中国では急速に生活に密着する存在になっていますが、日本における取り組みは、これからとなりそうです。
例えば、個人の社会的な信用は、職業や年収、家族構成、住宅ローンの有無などを指標としています。フリーランスとして働く人は、その肩書だけでローン契約を断られることも少なくありません。働き方改革が進み、ライフスタイルやワークスタイルが多様化する現代において、従来の指標だけでは個々人の現状の把握が難しくなっているのではないでしょうか。今後、日本社会にマッチした「信用スコア」が普及することで、ユーザー個人の信用度をいろいろな側面から計ることができる柔軟な価値観の実現が期待されます。
文・長野俊和
フリーランスシステムエンジニア。Comfortable Noise(コンフォータブルノイズ)代表。小売・接客業を5年、都内ソフトウェアハウスにて客先常駐型のプログラマーを9年経験後独立。フリーランス同士のチームを組んで進めるシステム開発を主軸事業として、IT技術を活用した業務改善、コンサルティング、提案などの活動を行っている。