デュアルワーク実践者に聞く、二拠点生活を成立させるポイントとは?
働き方改革の中で、新たな働き方のひとつとして注目されている「デュアルワーク」。dual(意味:二つの、二重)とwork(働く)を足した造語で、二つの地域や二つの企業、二つの職種で仕事をするという新しい働き方です。今回は実際に東京と地方の二拠点で仕事をしている方に、デュアルワークを成立させるポイントを伺いました。
【体験談】二拠点生活での働き方
2017年から東京と地元の宮崎の二拠点で仕事をしている女性ライターのTさん(28)は、大学進学を機に地元の宮崎から上京し、現在はフリーランスのライターとして、雑誌やウェブメディアを中心に取材・執筆活動をしています。
二拠点で仕事を始めようと思った主な理由は、「いまのワークスタイルでは体を壊しかねないと感じたから」なのだとか。「ここ数年、常に締め切りを抱えてオンとオフのない生活を続け、実際に婦人科系の病気を患ってしまいました。ライターという仕事は取材さえ終われば、インターネットがあればどこででも作業できる仕事なので、毎月強制的に“体を移す”ことで、生活にメリハリをつけるようにしました」とTさんは話します。
他にも、「地方にもちゃんと仕事があるとわかったから」「いずれは、空気がきれいで教育環境も整っている地元で育児がしたいから」といった理由で、二拠点生活を始めたそうです。
そんなTさんは現在、ひと月のうち20日程度を東京、10日程度を宮崎で過ごしています。
「東京にいる間に取材やクライアントとの打ち合わせを済ませ、宮崎にいる間に執筆作業に集中します。最近では地元の自治体関係の仕事も増えています」と、現在の生活を語ります。
生活も仕事の質も向上!二拠点生活で習慣や価値観に変化が
Tさんは「二拠点生活を始めて本当に良かった」と言い切ります。
フリーランスはとくに陥りやすいのかもしれませんが、Tさんは「仕事のオンとオフの切り替えがうまくできず、ダラダラと仕事をしている」と感じるようになったのだとか。思い切って二拠点生活を始めると、ひと月の中でも限られた時間しか東京にいなくなるため、取材のアポ入れなどのスケジュールを先延ばしにすることもなくなり、効率よく仕事をする癖が身についたそうです。
「移動は大変ですが、以前よりもダラダラと働かなくなり、規則正しく健康的な生活をしていますし、メリハリのある生活ができることで何よりストレスが減りました」とTさんはイキイキと話します。
また、環境を変えて、宮崎で集中して執筆作業を行うことで、執筆スピードも格段に上がったそうです。場所や環境を変えて仕事をすると、気分転換になって集中力が上がる、という経験は誰しもしたことがあると思います。しかしTさんは、自分がより快適に働くために、二拠点生活を決意します。
「都内のカフェはどこも狭く、混雑していて、私はあまり集中して作業ができませんでした。宮崎では少し移動するだけで海があって、広々とした落ち着いたお店もある。大抵の場所はWi-Fiもつながりますから、市内の至るところに快適な仕事場があるという環境で、ストレスフリーな仕事ができることが重要です」とTさんは言います。
二拠点生活が実現しやすい環境は、利便性とヒト
東京と宮崎という二つの拠点で仕事を始めて半年のTさん。この数ヶ月を振り返って、なぜ宮崎でも仕事が成り立っているのか、ポイントを教えていただきました。
ポイントのひとつは、市内から空港へのアクセスが良い点なのだそうです。東京~宮崎間は飛行機の便が多くはないものの、宮崎空港は市内までかなり近く、空港から宮崎駅までも電車で約10分。また、宮崎駅自体も市内の中心部まで歩いて数分というところに立地しているため、移動の負担が抑えられているそうです。
こうしたインフラ面でのポイント以外にも、風土や県民性といった価値観が合うからこそ、二拠点生活ができていると言います。
「宮崎の県民性は、ほがらかでオープン。とくにお酒を介したコミュニケーションは人と人とのハードルをグッと下げてくれるので、クライアントと飲みにいくだけですごく距離が近くなります。接待や会食というよりは、親戚が集まった飲み会の雰囲気に近いです。」と明るく話します。
また、仕事相手だけでなく、普段知り合う人とも心地よい時間が過ごせているようです。「初対面の相手も、飲みの席くらい仕事の話は置いておいて楽しく話そう、というスタンスの人がとても多いです。私のようなよそ者に対しても『頑張ってよ』と飲みの席で熱く応援してくれる人もたくさんいて、すごく励みになります」とTさんは話します。
さらに、宮崎は人柄の良さだけでなく、「移住をして起業する人への助成金制度やコワーキングスペースなど、自治体が積極的に支援していることも、二拠点生活の拠点として適しているポイント」と言います。
事実、宮崎の中でも、とくに日南市が行うフリーランスや企業誘致の取り組みは全国的にも有名です。2013年、当時33歳だった崎田恭平氏が市長に就任したことを機に、フリーランサーやIT企業の誘致政策を積極的に行い、2016年から2017年までの1年間に11社の誘致に成功させるなど、他の地域から人材や企業を歓迎する風土が育まれています。
デュアルワークなど、働き方はますます多様に
今回Tさんから教えていただいた、拠点を複数持つデュアルワークという新しい働き方は、利便性の高い土地で、他の地域から来た人を受け入れる風土があること、さらに人材育成プロジェクトやコワーキングスペースなど自治体による支援制度の環境が整った土地で実現可能な働き方であることがわかりました。
地方創生により、フリーランスや個人事業主を誘致するための制度を整える地域も増えています。生まれ育った地元や、住んでみたかった土地、気の合う人が多い地域など、今後は働く場所をますます自由に決めていける時代になるかもしれません。
今の働き方に不安や疑問を抱いている人はもちろん、生活の質を変えるための一つの選択肢として、デュアルワークを検討してみるのも良さそうです。