出張時に気を付けたい世界のビジネスマナー
仕事で海外に出張した際、相手の国に根付いたビジネスマナーを知らずに困った経験はありませんか。日本のビジネスマナーをそのまま当てはめていると、はからずも失礼なことをしたり、予期しなかった相手の対応に動揺してしまうことがあります。
世界23カ国54都市160以上の拠点で、サービス付レンタルオフィスやバーチャルオフィス、コワーキングスペースを提供しているサーブコープ。文化や宗教の異なる世界中のビジネスパーソンにご利用いただいています。そこで、世界各地のサーブコープで働くスタッフからアンケートを取り、海外出張先で気をつけるべきことや知っておくと便利なマナーについて聞きました。
中東のビジネスマナー
男女は握手しない?
文化の違いに特に驚かされることが多いのが、中東のビジネスマナーです。中東の文化はイスラム教の影響が強く、宗教による慣習がビジネスの場にも当てはまることが多くあります。
まず、アラビア語での挨拶は、”Assalam Alaykoum (アッサラーム・アレイクム)” です。これは日本語で「こんにちは」とほぼ同義で使用されていますが、もともとは「神の平和があなたの上に」という意味があります。
イスラム圏のビジネスシーンでは男性同士の握手は一般的ですが、女性と男性は握手をしない場合が多いため、女性からは握手を断られるケースがあります。また、握手は右手で行われますが、これには左手は「不浄の手」というイスラム教の概念が定着していることが背景にあります。
ジェスチャーとしては、目上の人の前で脚を組むのは無礼とみなされます。欧米では問題なく受け入れられていますが、日本人にとっても、あまり印象は良くありませんよね。このマナーは日本と中東の共通点と言えそうです。
中でも最もイスラムの戒律が厳しいサウジアラビアでは、女性が就労できる職業が教師や医師など、法的に制限されています。さらに、もし女性が同じ職場にいる場合は、必ず部署が分けられているので、ビジネスの場で男性と女性が対面することはありません。
「相手にあわせる」のがドバイ流
同じ中東、イスラム圏といっても、地域によって宗教的影響の度合いが変わるため、マナーが異なるケースもあります。とりわけリベラルなのは、アラブ首長国連邦(UAE)やレバノンです。
UAEは外国人の多い国で、特にドバイは80パーセントの人口が外国人、現地出身者はわずか20パーセントのみという、非常にインターナショナルな都市です。そのため、特に決まりきったビジネスマナーがあるというよりは、相手や状況にあわせて臨機応変に対応することがほとんどです。
例えば、男女が握手しないという習慣についてドバイ勤務の女性スタッフに尋ねたところ、こう教えられました。
「ドバイでは外国人が多いので、相手にあわせることが多いです。私個人としては、自分からあえて手を差し出すということはありませんが、男性側から握手を求められたら断らずに応じます」
このようにUAEでは、他の中東諸国よりも多文化に寛容であることがうかがえます。
キリスト教徒の多いレバノンでは?
またレバノンではイスラム教徒だけでなくキリスト教徒の割合も高く、ここでもイスラム教的なルールに対しては比較的リベラルな姿勢がとられています。会議などはオープンな空間で行うことが多く、会議中に誰でも出入りできるようにドアを開放し、かかってきた電話に出ることも普通だそうです。
また、バーレーンやカタールのビジネスマナーは、最も戒律が厳しいサウジアラビア、そしてリベラルなUAE・レバノンの中間にあたります。男女の握手は一般的ではない一方、ビジネスで活躍する女性は多く、外国人コミュニティもたくさん存在する環境の中で、多文化への寛大さが見られるようです。
この調査では、「中東」「イスラム圏」とひとことで言っても、国や地域によってビジネス文化の違いがあることがわかりました。出張の際は、行き先の地域の文化にあわせて、慎重に行動することが賢明といえます。
意外と知らない欧米のビジネスマナー
欧米諸国、特に英語圏の国のビジネスマナーは、日本人にとっても比較的馴染みが深いのではないでしょうか。特にエレベーターや入り口などでのレディファースト、次の人のためにドアを押さえておくことなどは、出張経験の多い方ならすでに身についているかもしれません。
しかし英語圏とはいえ、その土地ならではのユニークな慣習もありました。ニュージーランドでは基本的に欧米での一般的なビジネスマナーが守られますが、初対面のビジネスの相手がマオリ族出身である場合は、握手のかわりに「ホンギ」と呼ばれる、鼻と鼻とあわせるマオリ族の挨拶をすることもあるそうです。先住民族や移民などが共存する、多民族国家ならではのマナーです。
長期休暇を取るヨーロッパではビジネスマナーも寛大な印象があるかもしれませんが、興味深かったのはベルギーのスタッフからの情報。ヨーロッパの開放的なイメージに反し、ベルギーでは保守的なマナーが重んじられ、時間厳守、公私のけじめなどが非常に重視されているそうです。また服装や外見にはフォーマルさが求められ、会議中にジャケットを脱ぐのはマナー違反とされています。
ベルギーでも名刺交換は日常的に行われており、片面を英語に、そしてもう片面をフランス語かオランダ語にしておくのが一般的。これはベルギーの公用語がフランス語・オランダ語(フラマン語)・ドイツ語の三ヶ国語で、言語によりそれぞれコミュニティが形成されているためです。場合によっては片面を英語に、そしてフランス語バージョン、オランダ語バージョンの2種類を作っておき、相手の話す言語にあわせて手渡す名刺を決めるということもあります。こうして相手の言語や文化を尊重し合っているのです。
アジアのビジネスマナー
アジア圏では、やはり日本と共通するビジネスマナーが見られます。香港のサーブコープスタッフからは、以下のようなマナーを教えてもらいました。
- 名刺は地位の高い人から順に、両手で交換する
- 取引先へ訪問する際やミーティングでは、帽子を脱ぎ、サングラス等をはずす
- ミーティングでは地位の高い人が上座に座る
- お茶出しは上座から順に行う
- 来客が帰る際はエレベーターまで見送る
いかがでしょう?こうして見ると、香港では日本と全く同じマナーが守られる場面が多く、出張先でも親近感が生まれそうですね。
もう一つ、アジア地域で印象的だったのは、タイのビジネスマナーです。タイでは現在でも階級が重んじられているため、ビジネスシーンにおいても、それぞれの階級に応じたコミュニケーションマナーが守られるようです。名刺交換は地位の高い人から順に行われ、初対面の相手と話す際は、相手の外見、年齢、職業、学歴や人間関係からその人の地位を判断するのが普通。他の文化圏であれば、プライバシーに踏み込み過ぎだと思われるような質問も一般的に交わされることを念頭に置いておくといいかもしれません。
また、自分より地位の高い人に対しては「ワイ」と呼ばれる、合掌しながらお辞儀する挨拶の形式がとられます。タイでは幼いころから、相手の階級に応じた作法を教育の一つとして教わるそうです。
今回は世界のビジネスマナーの一部を紹介しましたが、いかがでしたか?文化や宗教による習慣の違いを理解しないままコミュニケーションを図ると、大事なビジネスシーンで相手に嫌な思いをさせてしまうことにもなりかねません。相手を理解するための前情報として、是非、参考にしてみてください。
監修:小平崇氏
高校時代を米国で過ごし、社会人になってからもアジアや欧米など海外出張の経験が豊富。現在はグローバルな人材を育成する外資系ビジネススクール「INSEAD」勤務、シンガポール在住。