女性の起業を成功させるポイントは?助成金や資金調達方法を専門家が解説
女性社長の数が増え続けているのをご存知ですか。2018年は全国で約45万となっていて、約21万人だった2010年に比べ2倍以上に増加。後述しますが、背景には女性起業家の増加もうかがえます。
起業なんて無理…と考える女性は多いかもしれませんが、助成金や起業セミナーなど、起業のための支援制度は整いつつあります。本記事では中小企業診断士の中郡久雄さんが女性起業のトレンドや起業するメリット、助成金や融資制度について詳しく解説します。
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女性起業家は増えている? その理由やトレンドは
もちろん、すべての女性社長が自ら事業を興した「女性起業家」ではありません。しかし、社長就任経緯を見ると、最も多い「同族承継」(50.8%)に次いで「創業者」(35.3%)が第2位。「内部昇格」(8.3%)、「出向・分社化」(2.6%)と続いていますが、女性社長に占める女性起業家の割合が高いことが見て取れます。
「生活関連サービス業・娯楽業」「学習支援業」「卸売業、小売業」といった生活に根ざした業種で起業する特徴があり、スキルを活かせる、ライフスタイルに合わせやすいという2点で起業する女性が多いようですが、コロナ禍も追い風となり、会社に頼りきることなく、自らの力で稼いでいきたいと考える人も増えていると感じます。
女性が起業するメリット3つ
では、中小企業診断士として思う起業メリットを大きく3つに分けて解説します。
1. 働き方のスタイルを選択できる
残念ながら現在の日本では、男性よりも女性に多くの負担がかかる仕組みになっています。結婚、子育て、親の介護で退職せざるを得ない女性は多く、復帰ができても非正規での再就職というケースが多数ではないでしょうか。
起業をすれば働き方を自分で決めることができます。たとえば自宅で開業する、子供が起きる前、寝た後に仕事をするなど、時間の使い方も自由。通勤の負担を軽減できれば、時間を有効に活用することも可能になるでしょう。
2. ライフステージに合わせ仕事ができる
子供が小さいときは育児に集中し、子育てが一段落したらバリバリ働きたいと願う女性は少なくありません。ですが、前述した通り、再度働きたいと思っても、希望通りの再就職は難しいのが現状です。
起業をすれば、家庭と仕事のバランスをある程度自分で決めることができます。変化するライフステージに合わせて柔軟な働き方ができるのはメリットです。
3. 消費者の8割が女性! 支持を集めやすい
消費者の8割は女性です。同性の視点で企画・立案できるのは間違いなく大きな強みです。子育てや介護を経験した女性ならなおさら、同じ立場の消費者がどんなことに悩み、困っているのかを想像し、問題を解決するようなサービスや商品を提案できるでしょう。
女性視点に立ったサービスや商品はビジネスとして大きな可能性を秘めているのです。
起業に失敗しないためにクリアしておきたいポイント5つ
上記に挙げたメリットを得るには、もちろん事前の準備が必要です。起業前にクリアしておくべきことのなかから、特に重要だと思う点を5つ挙げてみます。
1. 生活費と事業資金を「コツコツ」貯めておく
起業をしてすぐに売上があるとは限りません。しばらくの間は収入がなくなることも想定しておきましょう。少なくとも3ヶ月分、できれば半年分の生活費は事前に確保してください。
また事業資金も貯めておく必要があります。後ほどご紹介する助成金や補助金は、すぐに現金が手元に届くわけではありません。当面の運転資金は用意しておく必要があります。
また融資の際に、創業資金総額の一定割合の自己資金があることが条件になる場合があります。起業して間もない時期は、収入より支出が多くなるのが一般的です。一定額を毎月積み立てている実績が金融機関の心証を良くするポイントにもなります。コツコツ貯めておくことを心がけましょう。
2. 事業計画書と資金繰り表を作ってみる
事業を行っていく上で、事業計画とそれに伴う資金繰りが欠かせません。なりゆきに任せるようなやり方では必ず行き詰まります。
「起業しよう」と考えたのには理由があるはずです。それを深掘りして、事業の目的を明確にし、その目的を達成するためにはどんなことをしていけばいいのか、どの程度の資金が必要になるのかを考えながら計画を立ててみることです。
助成金の申請をするにも融資の依頼をするにも、この事業計画書が欠かせません。徐々にブラッシュアップして完成度を高めていけばいいので、まずは作ってみることが大事です。
3. 商工会議所などの起業セミナー(創業塾)に参加する
とはいえ「事業計画書」や「資金繰り表」をどう作ればいいのか、雲をつかむように感じる人もいると思います。そんな場合は起業セミナー(創業塾)を受講するのがおすすめです。
起業セミナー(創業塾)を受講するメリットはそれだけではありません。同じ起業という志を持った仲間や、塾のOB・OGである先輩起業家とつながりを持てます。また、起業支援を行っている公的機関の方々との人脈を作ることもできます。
創業当初は孤独になりがちです。こうして得た人脈を育ててくのも大切になります。
4. ホームページを準備しておく
起業と同時に自社ホームページ(以下「HP」)を準備する会社はほとんどないようです。しかし、起業後の営業活動を行う際に、自社のHPが完成しているとより高い効果が期待できます。
逆に、HPの準備ができていないと「信用性」という点からマイナスになりかねません。事業に興味を持ってくれた人の多くは、まず会社の概要が知りたくなるでしょう。検索をしてもHPが出てこないと、せっかくのビジネスチャンスを失うことになりかねません。
不完全で構わないので、自社HPを準備し、必要に応じて、起業後に修正を加えていきましょう。
5. 会社を辞めるタイミング・辞め方について考える
起業という目標に向かって前のめりになると周囲が見えなくなることがあります。そのため、勤務先や勤務先のお客様への配慮を欠いてしまう人も中にはいます。
事業は信用の上に成り立つものです。迷惑を掛けたまま退職してしまうと、前職で積み上げてきた信用を失ってしまいます。これから事業を始める上でこれほどの痛手はありません。
どのタイミングで退職すれば迷惑を掛けないか、退職後は勤務先・同僚とどんな関係を築いていくのかといったことも意識しながら、起業の準備をしていくことが大切になります。
助成金や支援制度、資金の調達方法とは?
それでは、女性起業家が利用しやすい助成金をはじめとする資金調達の方法について見ていきます。
補助金・助成金
1. 創業補助金
創業補助金は、新規事業を立ち上げようと考えている人に対し、初期段階で必要となる資金の一部をサポートしてくれるもの。起業を考えている方には、ぜひ活用してほしい制度です。
補助額は原則、かかった経費の2分の1。上限は200万円に設定されています。
例年4月〜5月に公募があります。年々人気は上昇しており、採択率は低下しています。採択にあたっては「創業計画」が重要になるのでしっかり計画を練り上げましょう。
2. 若手・女性リーダー応援プログラム助成事業
(東京都)
東京都内の商店街活性化を目的とし、女性や若手男性の新店舗開業に必要な経費の一部を助成する制度です。一定の要件を満たせば、助成額は最大で730万円、そして助成率は、3/4以内と高い割合になっています。
助成の対象となる業種は絞られますが、生活関連サービスや小売りで起業を考えている場合はおすすめの助成金です。
この助成制度は東京都のものですが、ほかの全国各自治体でも「女性起業家を支援する」ための助成事業が各種行われています。地元の自治体に問い合わせてみてください。
3. 中小企業基盤整備機構 地域中小企業応援ファンド
(スタートアップ応援型)
中小企業基盤整備機構(中小機構)、各都道府県の役所、中小企業支援機関、地方銀行などが共同出資して各都道府県に組成されたファンドです。運用は各都道府県の中小企業支援機関が行い、得られた収益を地域貢献性が高い新事業に取り組む中小企業者等へ助成しています。
全国約30都道府県の状況に応じて組成されていて、条件はそれぞれ異なります。起業を考えている都道府県が適用になるか確認してみましょう。
地域貢献性が高い新事業が対象なので、農林水産物や伝統技術を活用する、商品開発・販路開拓の支援が中心になります。
融資制度
4. 新創業融資制度(日本政策金融公庫)
一般の金融機関では起業前に融資が行われることは希ですが、日本政策金融公庫は起業前でもOK。「新創業融資制度」は「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方」など一定の要件を満たせば、原則、無担保無保証人で融資を受けられる制度です。融資限度額は3000万円(うち運転資金1500万円)になっています。
また日本政策金融公庫では「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」といった起業家が使いやすい仕組みが整っています。
5. 各自治体の融資支援
全国の各自治体では「女性起業家を支援する」ための施策が行われていますが、自治体独自のものも多く、東京都であれば「女性・若者・シニア創業サポート事業」、埼玉県では「女性経営者支援資金」、横浜市では「女性おうえん資金」が該当します。
条件はそれぞれ異なります。まずは地元市区町村の該当部署(商工観光課や産業経済課など)に相談してみてください。
6. 信用保証協会の活用
各地の信用保証協会では「創業保証」を行っています。協会に借り入れの「公的な保証人」になってもらうことで、起業時には融資を受けられない金融機関からも借り入れが可能になる制度です。
申し込みは保証協会の窓口か商工会議所・商工会・商工会連合会などで受け付けています。申込書に必要書類を添付して提出し、保証が適切であると判断された場合には、金融機関に融資のあっせんをしてもらえます。ただし、金融機関でも独自の融資審査があり、融資をしてもらえることが保証されたわけではありません。
7. ビジネスプランコンペティション(コンテスト)
DBJ女性新ビジネスプランコンペティション(日本政策投資銀行)
日本政策投資銀行では、女性起業サポートセンターの事業として、「女性新ビジネスプランコンペティション」を開催しています。2020年には第8回を迎えており、受賞者には、最大1,000万円の事業奨励金が支給されます。
同様なビジネスプランコンペティションは全国各地で行われています。入賞しないと意味がないように思えますが、自分の事業計画・ビジネスプランを評価してもらう良い機会になります。講評をもとに事業計画のブラッシュアップをしたり、コンペティションOB・OGの起業家から起業ノウハウをアドバイスしてもらえたり、さらには計画実施のための事後支援を受けられる場合もあります。
たとえ入賞を逃してもさまざまなメリットがあるので、ぜひ出場を検討してみてください。
8. クラウドファンディング
ここ数年、クラウドファンディングが盛んになってきました。「資金を集めたい人」と「支援したい人」をインターネット上でつなぎ、マッチングすることで必要な資金を調達する仕組みです。
日本では震災復興支援として広まりましたが最近は扱うテーマやジャンルが幅広くなってきており、起業も大きなテーマになってきています。プロジェクトを達成させて資金を調達するためには、多くの人に自分が扱う商品やサービスが届くようにPRをしなくてはいけません。ここでも、事業の目的を明確にした事業計画書が大切になってきます。
代表的なクラウドファンディングサービスとしては、CAMPFIRE やREADYFOR、Makuake(マクアケ)などがあります。どのサービスも起業に活用することができます。
起業にはバーチャルオフィスの活用がおすすめです
いかがでしたか。今回は、女性が起業するメリットや起業前にしておくべきこと、各種支援制度と補助金、資金の調達先について中郡さんに解説していただきました。
国は「女性活躍推進」を目標に掲げており、国のみならず各自治体も積極的に支援を行っています。しっかり考え、きちんと計画を立てれば成功確率が以前より格段に高くなる、そうした環境が整いつつあります。
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バーチャルオフィスとは?メリット・デメリットや利用目的を紹介
文・中郡久雄
2013年、中小企業診断士資格を取得。中小企業の経営支援、事業承継支援や地域活性化を目指すNPO法人を支援。中小企業診断士(経済産業大臣登録)、事業承継マネージャー(金融検定協会認定)、印刷会社経理担当、インタビューライター。https://note.com/h_chugun
参照:
「全国女性社長」調査 東京商工リサーチ
全国・女性社長分析(2019年)帝国データバンク調べ
女性起業家を取り巻く現状について(内閣府男女共同参画局)