ビジネスの成長に「知的財産戦略」。 “特許や商標”を他人ごとだと思っていませんか?
サーブコープでは定期的にビジネス講演会を開催。毎回、さまざまな分野のゲストスピーカーをお招きして興味深いテーマについてお話いただいています。
今回は4月13日に日比谷セントラルビル拠点にて開催された「知的財産戦略で急成長!~PPAP商標出願問題に見る日本企業の職人気質とその対策~」についての講演会の模様をレポート。特許や商標に13年携わっている西原国際特許事務所代表の弁理士 西原広徳氏にお話いただきました。西原氏はただ特許や商標の申請をするだけではなく、“それをビジネスの成長にどのように活かすのか”までクライアントに提案・アドバイスすることを得意とされています。
日本企業では「知的財産」「特許」「商標」などはハードルが高いと思われがちです。特に中小企業の方々は“大企業の話”と感じ、あまり気に留めないことも多いのではないでしょうか?しかし、考慮せずにビジネスを展開していくのは企業の成長を脅かしかねない、ということを再認識する必要があります。今回の講演会では多くの例を取り上げ、わかりやすく知的財産戦略についてレクチャーしていただきました。
PPAP問題と日本企業の職人気質
“PPAP”問題
最近、大阪のある会社がピコ太郎さんの「PPAP」を無断で商標登録出願したため、ピコ太郎さんが「PPAP」の名称を使えなくなるのではないか、ピコ太郎さんピンチ!というニュースが世間をにぎわせました。ここから見えてくる、商標出願の問題は何でしょうか?
- 他人に商標登録をされたら、自分が使っていた名前が使えなくなるのか?
- 後から出しても登録できない?
- 他人に権利を取られたら何もできない?
職人気質
昔ながらの日本の企業体質に多いのがこの“職人気質”です。
- 「とにかくいいものを作ればいい。商品力では勝てる」と思っていませんか?
- 取引先を信用しすぎていませんか?
- 権利や契約などは難しいから関わりたくない、と億劫になっていませんか?
本当にそのまま無防備なままでいいのでしょうか?例えば、「取引先や下請けに商品開発のコツなどを漏らしてしまい、仕事を取られてしまう」「難しいから契約書をきちんと読まず、不利な条件にも関わらず判を押す」などのトラブルが起こっています。
知的財産に関わる事例
- 時間とコストをかけて商品開発した製品を特許登録していなかったために、他社にアイデアとノウハウを盗まれてしまうケース。他社は商品開発へのコストをかけておらず、安価に類似商品を販売。市場拡大ができたにも関わらずそのチャンスを逃してしまう。
- これまでに培った技術を応用し、他の業界に参入。売り上げが倍増し順調に成長していたが、知財に関しての対策を全くしていなかった。実はすでに他社で使用していた特許技術だったために特許侵害で訴えられ、製造中止・損害賠償金15億円の支払いとトップの引責辞任、という事態に。
- メディアに取り上げられるほどのヒット商品を発売していたショップは、店名を商標登録していなかった。店名は大手企業に商標登録されてしまい、差止め請求を受け、店名が入ったものは全て使用できなくなってしまった。また、店名の入ったホームページのURLなども変更しないといけないため、SEOなどにも大きなダメージとなる。
- 加工商品にスリットを入れて販売。知財対策として特許権を取得しており、大手企業がこの技術を模倣した際には製造差止めを請求し、損害で得たお金をビジネスの発展に活用することができた。「スリットを入れる」というシンプルな技術であっても知財対策を怠らず、万全にしておくことによって、ビジネスの成長に繋げることができる例。
- ホテルが顧客サービスに利用できる商品を考え、意匠権を取得。他社がデザインを使用していたため警告をして使用をやめさせたところ、模倣品を利用していたホテルから権利者へ注文が入るようになり、市場を一気に拡大できた。
知的財産戦略
権利取得の対象はさまざま。まずは“なにか特許などの権利が取れないか”ということを考えることが大切です。アイデアや技術面は「特許」、デザインは「意匠」、ロゴや名称などは「商標」となります。自社の商品にはどの知財対策が必要なのか認識しましょう。
それぞれ注意も必要です。例えば、意匠権とは物の形が対象となり、イラストやマークなどのデザインは意匠権の範疇ではないので、自社の商品が権利の取得ができるか見極めましょう。また、名称に関しては単純なアルファベット2文字だと商標登録できないので、商品名を考える際には考慮する必要があります。
知的財産戦略として、すべきこととメリット
調査
- 権利化できるかどうか、また侵害していないか確認できる。侵害していないかの調査はかなりの作業量となり金額もかさむので、どの範囲まで調査するのかなど専門家に相談するのが懸命。
侵害回避
- 訴訟を避けられる。
- 権利を侵害する可能性がある場合、どのように回避するかなどの対策を時間の余裕をもって行える。
権利化
- 権利をアピールできる。
- 他社の模倣を防止でき、損害賠償を得られる。“権利の範囲”があるのでどこまでの範囲を網羅するのか、という作業が必要。
- ライセンス収入の道が開ける。
知的財産に関する注意事項
特許出願する前に公にしない。
“クライアントに話してしまう”“サンプルを見せてしまう”などは法律上“公にした”とみなされ、本人を含め誰も特許出願ができなくなりますので注意しましょう。ただし、守秘義務のある人への相談は除きます。
公になってから6ヶ月以内なら例外的に“公になっていないとみなす”手続きがある。
ただし、“いつ・だれに・どのような形で”などを記載した証明書を特許庁に提出し、手続きが必要。しかし、海外では適用できないケースが多いので万全ではないことを認識しておきましょう。
取引先との会話に注意。
アイデアを出し合うなどして、先方から「共同出願」を提案されるケースがあります。この「共同出願」は特許出願した技術などの使用を双方が自由に実施できるため、受注の機会を失うリスクもあります。また、特許権の譲渡に対しても共同出願者の同意が必要です。
ビジネスの発展にはしっかりとした知的財産対策を
商品やサービスを提供する際に、“顧客が購入を決めるポイント”には“価値がある”という認識を持ち、それに関する権利を守っていきましょう。また逆に、他社の権利を侵害していないか慎重になるべき点でもあります。ビジネスにつながるポイントはきちんと知財対策をしておくことが、今後のビジネス展開や成長に大きく関わっているという意識を持つことが重要です。
また、利益になるポイントも忘れずに権利取得を考慮すべき点です。例えば、プリンター本体はもちろんですが、“インク”も継続的な利益を生むものです。つまり、要となるポイントがどこなのかきちんと見極め、的確に権利取得をしていくことが求められます。
講演者プロフィール
西原国際特許事務所代表 弁理士 西原広徳氏 ソフトウェア関連会社・特許事務所勤務を経て、平成22年に西原国際特許事務所開設。株式会社凝縮塾 代表取締役社長、 日本弁理士会 知財経営コンサルティング委員会 副委員長、帝国データバンク契約コンサルタントなど幅広い活動を続けている。また、著書や論文、執筆にも多数携わり、京都大学等での講師としても活躍。 特許業務における技術分野は、電気、電子、機械、ソフトウェア、WEB技術、通信技術、 物理、バイオ、化学、ライフサイエンス、核医学、日用品など。 ウェブサイト:https://www.nishiharapat.jp/ |