居抜きオフィスとは? メリットや注意点、専門家のアドバイスを紹介
前の借り主が利用していた状態のまま、家具やレイアウトも活用する形で契約する賃貸オフィス物件の一種「居抜きオフィス」。近年、オフィス需要の大きな変化とともに、注目を集めています。本記事では、オフィス物件を専門に扱う株式会社アットオフィスの石井 大己さんに居抜きオフィスのトレンドやメリット、借りる際の注意点を教えていただきます。
居抜きオフィスとは?
居抜きオフィスとは、前の借り主が使っていたオフィス家具やレイアウトをそのまま残した状態で貸し出されるオフィスのことです。
通常、オフィス物件は何もないまっさらな状態で貸し出されるため、一から設備や内装を整える必要がありますが、居抜きオフィスならその手間と費用が軽減できます。
昔から飲食業態などを中心に「居抜き物件」は活用されてきましたが、オフィス物件でも居抜きという形が増えており、スタートアップ企業やベンチャー企業など、コストを抑えてオフィスを調達したい企業から注目を集めています。
その背景として、コロナ禍をきっかけに多様な働き方の選択肢が増え、オフィス需要の変化のサイクルが短くなってきたこと、工事費や建築資材費の高騰などがあげられます。
この記事では、オフィス移転に関するあらゆるサービスをワンストップで提供する、オフィス専門不動産会社である「株式会社アットオフィス」の営業担当、石井 大己さんに居抜きオフィスについて取材し、利用のポイントや注意点を解説します。
セットアップオフィス・レンタルオフィスとの違い
居抜きオフィスとよく比較・検討されるオフィス形態に「セットアップオフィス」と「レンタルオフィス」があります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
特徴 | 契約形態 | |
居抜きオフィス | 前の借主の用意したオフィス家具や設備を、原状回復せずそのまま次の借主に貸し出すオフィス物件 | 賃貸借契約 |
セットアップオフィス | 貸主側が内装工事まで行い、すぐに利用開始できるオフィス家具・設備付きのオフィス物件 | 賃貸借契約 |
レンタルオフィス | フロアを独立した執務スペースに区分し、オフィス家具やインフラ、共有の会議室やロビーなどを含めて提供するサービス | 利用契約 |
居抜きオフィスのオフィス家具や内装設備は、あくまでも前の借主の「残置物」であり、原状を優先してまとめて貸し出されるものです。多くの契約で「現況優先」となり、基本的にオフィス家具や内装について変更や修繕を求めることはできない代わりに、オフィス開設費が安価ですぐに執務をスタートできる点が魅力です。契約形態は一般的な賃貸オフィスと同じ賃貸借契約です。
それに対して、セットアップオフィスは貸主側が内装工事やオフィス家具の手配・設置まで担当し、メンテナンスがきちんと施された状態で提供されます。入居まで短時間で対応できる点、比較的デザイン性が高く魅力あるオフィスである点が大きなメリットです。こちらも契約形態は賃貸借契約となります。
最後のレンタルオフィスは、居抜きオフィスやセットアップオフィスと比較すると、より小さいスペースを中心に提供されます。個室を契約し、個室以外の会議室やロビーなどの共用部を他社と共同利用するサービスです。賃貸借契約は居抜きオフィスやセットアップオフィスと異なり、施設利用契約になります。
居抜きオフィスを選ぶ企業が増えた理由
<石井さんコメント>
「最大の理由は、移転費用(内装や什器)を抑えられる点です。
コロナ禍でリモートワークが推進され、オフィスの縮小傾向が強まっていた時期に、できるだけ移転費用を抑えようという動きから居抜きオフィスの需要が高まりました。
さらに昨今は、建築資材や部材の高騰に加え、建設業の労働時間制限による人員不足が影響し、移転費用は高騰しています。内装や什器のグレードによって差はあるものの、数年前は1坪あたり20万円前後が目安とされていたオフィス移転費用は、現在では30万円前後と約1.5倍に上昇しています。
もともと、居抜きオフィスは、コストを抑えながら移転を繰り返す必要のあるベンチャー企業に人気でしたが、最近では上記の理由もあり、ベンチャー企業に限らず、多くの企業に定着しています。
また、以前はトラブルの懸念から、居抜きでの引き渡しを容認するビルオーナーは多くありませんでしたが、需要の高まりとともに、居抜きを認める物件も増えているのが現状です。さらに無駄な原状回復をなくそうというSDGsの観点からも、居抜きオフィスは注目を集めています」
居抜きオフィスに向いている企業
居抜きオフィスは、以前の入居者が利用していた設備や内装をそのまま引き継いで利用するため、利用する企業によって向き・不向きがあります。
・オフィス家具や什器の購入などの初期費用を抑えたい
・事業規模の変化スピードが速く、オフィスに柔軟性を求めたい
・ハイブリッドなワークスタイルを導入したため、速やかにオフィス規模を縮小したい
これらの要望がある企業の中で、さらに居抜きオフィス物件とマッチしやすい企業についてもコメントをいただきました。
<石井さんコメント>
「居抜きオフィスは既存のレイアウトが自社の業務にマッチするかが重要です。
従業員数が50名~100名規模になるとオフィスの使い方も多様になり、「会議室の数が足りない」、「個室をもっと増やしたい」などの課題が生じやすく、条件の合う物件に出会えるまでに時間がかかる可能性はあります。
一方で従業員10名ほどの企業なら会議室も一つあれば十分ですし、既存のレイアウトを活用できるケースが多いため、どちらかというと小規模の企業に向いていると言えます。こうした背景から、コロナ直後の居抜きオフィスは100坪以内の物件が中心でした。しかし需要の高まりから、100坪以上の居抜きオフィスも増えてきており、中・大規模企業も以前と比べると居抜きオフィスの選択の幅が広がっています」
居抜きオフィスを賃貸するメリット
居抜きオフィスは、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。特に注目のメリットを3つ、教えていただきました。
コスト削減
<石井さんコメント>
「まずは、コスト面でのメリットが一番です。通常のオフィス物件に入居する際の移転費用は、内装や什器のグレードによって大きく変わりますが、数年前は1坪あたり20万円前後が目安とされていたオフィス移転費用は、現在では30万円前後と約1.5倍に上昇しています。
居抜きオフィスでは、前の借主の内装をそのまま引き継げるので、費用をかなり抑えることができます。ケースバイケースですが、一からオフィスの内装を整備するのと比べ、大幅な経費削減になります。
また、内装工事をする場合、2、3社でコンペをする場合もあり、内装工事の相談から、オフィスレイアウトのプランニング、施工まで専門業者と相談しながら進めていきます。総務担当者様などのそういった手間(コスト)が省けるのも、かなり大きなメリットになるのではないでしょうか。」
移転スケジュールの短縮
<石井さんコメント>
「通常のオフィス物件に移転する際は、一から内装工事を行わなければなりません。内装工事は、新しいオフィスのレイアウトを引くのに約1~2か月、施工完了まで通常4か月ほどかかります。しかし、居抜きオフィスであれば、ネット環境さえあればオフィスを契約しすぐ利用することも可能で、仮に少し内装を変更したとしても、一から内装工事をするより、ずっと時間の短縮になります」
居抜き退去
<石井さんコメント>
「居抜きは、退去テナントにも原状回復費用を削減できるというメリットがあります。
昨今、建築資材、部材の高騰や建設業の労働時間制限による人員不足から、原状回復費用も上昇しています。物件によっても異なりますが、数年前は原状回復費用に1坪あたり10万円前後が目安と言われていたものが、現在は1坪あたり15万円~20万円前後となっており、居抜きオフィスならその費用も削減できます。規模によっては、何千万円という単位となってくるため、規模が大きいほどこのメリットは大きいと思います」
居抜きオフィスを賃貸するデメリットと注意点
居抜きオフィスは物件によってさまざま。その分、デメリットや契約するうえでの注意点もあります。あらかじめ知っておきたいポイントを解説します。また、居抜きオフィス契約でのトラブル回避のコツも解説いただきました。
物件数が少ない
<石井さんコメント>
「以前と比較すれば、弊社のホームページに掲載が間に合わないくらいのスピードで居抜きオフィスの数が増えています。とはいえ全体から見れば供給数は少なく、掲載される前に契約が決まっていくケースも少なくありません。
居抜き物件を専用サイトでチェックするのは効率的ですが、電話で直接相談する方が、最新の物件情報も含めて手に入るかもしれません」
家具や什器に破損や汚れがある可能性
「居抜きオフィスにあるオフィス家具や什器、内装はすべて中古品のため、使用に影響しない軽微な破損や汚れが付着している可能性はあります。基本的に「現況優先」であり、それらの破損や汚れに対する保証はありません」
レイアウトを自由に変更できない
フルスケルトンから作り上げる賃貸オフィス物件とは異なり、居抜きオフィスは、レイアウトの仕切りがすでに作られています。個々の部屋の大きさやレイアウトを自社の業務に合わせて自由に変更することはできないか、またはレイアウト変更が可能でも元の造作の撤去費用を自費で負担する必要があります。
追加費用が発生する可能性
「基本的に内装工事費や家具・什器購入などに費用がかかりにくい居抜きオフィスですが、場合によっては会議室や什器が足りないということもあり得ます。その際は取得や修繕に追加費用が発生する場合があります」
原状回復を求められることがある
「居抜き入居した場合、退去時にも居抜きを容認されるケースももちろんあります。ただし契約時点ではどのくらいの期間入居するか、退去時には内装がどうなっているのか、契約時には未確定なため、契約上は原状回復義務を負うのが基本となります。その場合、原状回復設備の調達が難しい可能性があるため、契約書のそれらの項目についてしっかりと確認しましょう」
トラブル回避のコツは?専門家のアドバイス
<石井さんコメント>
「実は、居抜きオフィスの定義は物件のオーナーによって異なります。つまり、どこまで残すのを居抜きと呼ぶのかは、ケースによって違うため、移転後に『あれがない、話が違う』となることも。
そうならないためにも、什器備品をどこまで引き継げるのか、事前にしっかり確認し、契約書内で引継ぎのリストや写真を同封して取り決めておくことが重要です。
また、引き継げる什器備品は、基本的に前の借り主が使い古した中古品です。実際に使おうと思ったら、壊れていたというケースも考えられます。移転費用を抑えるために居抜きオフィスを選んだにもかかわらず、コストが増えてしまっては意味がないので、しっかり対応してくれる仲介業者を通して、契約を結ぶことをおすすめします。
さらに退去時についての取り決めも、事前にしておいた方がトラブル回避になると思います」
居抜きオフィスの検討から入居までの流れ
居抜きオフィスの検討から入居までの流れは、一般的な賃貸オフィスの流れとほぼ同じです。
1.オフィスの条件(広さ、賃料、立地、居抜きの場合必須の設備)を整理
2.不動産会社やサイトで居抜きオフィス物件探し
3.内見
4.申し込み・審査
5.契約(賃貸借契約および造作譲渡契約)
6.必要に応じてクリーニングや追加内装工事
7.引っ越し
8.移転手続き
ここでは簡単に流れを確認しましたが、一般的な移転に関するさらに詳しい手続きについては以下の記事を参考にしてください。
コストを抑えるならフレキシブルオフィスもおすすめ
「オフィスは賃貸契約を交わして長期的に利用したい」このようなポイントにこだわらなければ、よりコスト削減とスケジュール短縮が可能になるのがフレキシブルオフィスと呼ばれるオフィススペースサービスです。レンタルオフィスやコワーキングスペース、バーチャルオフィスと、オフィスの目的に合わせて選ぶことができます。ぜひ一度チェックしてください!
短期利用も可能でサイズや利用人数も選べるからコストカットにつながる!
\サーブコープのフレキシブルオフィス一覧はこちら/
(まとめ)費用削減などメリットがある居抜きオフィスの活用も検討してみましょう
居抜きオフィスを活用すれば、費用削減、時間短縮、効率化の3つの点で大きなメリットになりそうですね。自社が求める条件にぴったりマッチする物件に出会えたら、スムーズな事業の立ち上がりに大いに貢献します。興味を持たれた方は専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
取材協力
株式会社アットオフィス
首都圏営業部 1課 課長 石井 大己氏
東京・神奈川を中心に、オフィスの仲介を軸に、オフィス移転に関するサービスをワンストップで提供。運営する賃貸事務所検索サイト『at OFFICE』は、関東を中心としたオフィス物件掲載サイトの中では最多規模の1万件以上。小規模物件から大型のビルまで対応し、オフィスを探す企業のあらゆるニーズに対応している。