自己資金なしでも起業はできる?創業融資の種類と開業資金を増やす方法を専門家が解説
新たにビジネスを始める際には開業資金を用意するケースが一般的ですが、自己資金がない場合でも起業することは可能です。その場合には自己資金以外の方法で、事業を営むための運転資金や設備投資資金を工面しなければならないため、融資制度などの活用を検討する必要があります。
この記事では、自己資金なしでも活用できる融資制度や、起業を成功させるためのポイントなどについて、専門家が解説します。
そもそも自己資金とは?
融資制度を活用する場合に、自己資金に含まれる資金とそれ以外のものについて理解しましょう。
一般的にはそれぞれ以下のように分類されます。
自己資金になるもの
自己資金となるものについては、次の項目が代表例として挙げられます。
- 事業者名義の現預金
- 配偶者名義の預金(配偶者本人の同意が必要)
- 退職金
- 相続した現預金
- 生命保険などの解約金
- 不動産や車などの売却代金
融資などにおいては、事業者自らの現預金に加え、配偶者名義の預金についても本人の同意があれば自己資金として認められるケースがあります。
また退職金や資産の売却によって得たお金についても自己資金に含まれますが、融資審査においては源泉徴収票や売買契約書などの提示を求められる場合もあるため、関係書類は必ず保管しましょう。
なお開業に際し、親や親族などから資金の贈与を受けた際には、その資金の出所を確認できる場合には自己資金として認められるケースもあります。
その場合には、贈与者の通帳をあわせて提出するなどの方法により、贈与時のお金の流れを明らかにする必要があります。そのため贈与の際には現金を手渡しで受け取るよりも、預金口座へ振り込んでもらうようにしましょう。
自己資金にならないもの
融資申請の際に、自己資金として認められないものの代表例は以下のとおりです。
- タンス預金
- 借入金
- 見せ金
それぞれについて、解説します。
タンス預金
タンス預金は、預金通帳を確認しても出所を確認できないケースが多く、融資申請の際に自己資金として認められない場合が多いです。したがって自己資金を蓄える場合には、タンス預金ではなく預金口座などの記録が残る形で管理することをおすすめします。
借入金
他者から借りたお金は将来返済が必要であり、自己資金には含まれません。この場合の借入金には、金融機関からの融資だけでなく、カードローンやクレジットカードのキャッシング、親族や知人などから借りたお金も該当するため注意が必要です。
見せ金
見せ金も自己資金から除外されます。見せ金とは、融資審査の際に自己資金に見せかけるために一時的に第三者から借り入れた資金であり、金融機関は見せ金による自己資金の水増しがないよう、資金の出所を入念にチェックします。万が一見せ金であることが判明した場合、金融機関からの信用を失うため注意しましょう。
自己資金なしでも起業はできる
自己資金がなくても起業することは可能です。ただし起業の際には仕入や設備投資が必要なケースも多く、それらの開業時の支出に充てるための資金を工面する必要があるでしょう。
したがって自己資金がない場合でも、金融機関などから融資を受けるなどの方法により、開業資金を用意するケースが大半です。
融資を受ける場合には、自己資金の有無や創業計画書の内容によって借入可能額も異なるため、必要な開業資金をあらかじめシミュレーションし、具体的な調達方法を検討しましょう。
自己資金なしで起業するときに利用できる融資
自己資金を十分に蓄えた場合に比べると、自己資金なしで起業する場合には計画性の低い事業とみなされやすく、融資審査のハードルも上がってしまいます。
ただし自己資金がなくても申請が可能な融資制度も存在するため、融資条件などを正しく理解し、制度の活用を検討しましょう。
起業時に活用できる公的な助成金・補助金・融資・支援金15選の特徴がまとまっているこちらの記事も併せてご一読ください。
新創業融資制度(日本政策金融公庫)
起業する際に利用される融資制度の代表例としては、日本政策金融公庫による「新創業融資制度」が挙げられます。
新創業融資制度の具体的な条件などは下表のとおりです。
対象 | 1.対象者の要件 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方(注1)2.自己資金の要件(注2) 新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方。 ただし、「お勤めの経験がある企業と同じ業種の事業を始める方」、「創業塾や創業セミナーなど(産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業)を受けて事業を始める方」などに該当する場合は、本要件を満たすものとします(注3)。 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円)(注4) |
利率 | 基準利率(令和5年8月1日時点) 2.24~3.20%(年利) |
担保・保証人 | 原則不要 |
参照元 | https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html |
(注1)「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」に限ります。
なお、創業計画書のご提出等をいただき、事業計画の内容を確認させていただきます。
(注2)事業に使用される予定のない資金は、本要件における自己資金には含みません。
(注3)詳しくは、こちら をご覧ください。
(注4)本制度をご利用いただく場合は、併用する他制度(新規開業資金など)の定めにかかわらず、3,000万円(うち運転資金1,500万円)となります。
当制度は、税務申告を2期終えていない事業者が対象であり、無担保・無保証人によって融資を受けられる点が大きな特徴です。
また民間の金融機関に比べ、創業直後の実績が乏しい段階でも融資が受けやすく、融資実行までのスピードも早いなどのメリットがあります。ただし無担保の場合には、他の融資に比べて金利が高くなるケースもあるため注意が必要です。
なお当制度では、新規創業者の場合には原則として創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要とされています。ただし勤務経験のある企業と同じ業種の事業を開業する場合など、一定の条件に該当する場合には、自己資金がなくても融資を受けられるケースがあります。
新規開業資金(中小企業経営力強化関連)(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫では、女性や若者、シニア層が創業する場合や、廃業歴のある人が創業に再チャレンジする場合、企業が中小会計を適用して創業する場合など、一定の要件に該当する場合には通常よりも有利な条件で融資を受けることが可能です。
たとえば、中小会計を適用する場合には、下表の条件となります。
対象 | 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方(注1)のうち、 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用しているまたは適用する予定の方であって、 自ら事業計画書の策定を行い、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
利率 | 特別利率A(令和5年8月1日時点)1.54~2.50%(年利) |
参照元 | https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/64.html |
(注1)「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」に限ります。
当制度については、先述した「新創業融資制度」との併用が可能であるため、要件を満たすことで、特別金利の適用など、より有利な条件によって融資を受けられます。
また「新創業融資制度」では税務申告を2期終えていない事業者が対象ですが、「新規開業資金」ではおおむね7年以内であれば対象に含まれるため、2期以上経過した場合でも申込みが可能です。
さらに「新創業融資制度」とは異なり、形式上の自己資金要件がないため、自己資金が不足していても融資申請ができます。
ただし当制度を利用する場合には、策定した事業計画書について、税理士や中小企業診断士などの経営革新等支援機関による支援を受けていることが条件となるため注意が必要です。
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)(日本政策金融公庫)
挑戦支援資本強化特別貸付とは、日本政策金融公庫が展開する融資制度であり、スタートアップや新事業展開、海外展開などに取り組む事業者の支援を目的としています。
具体的な制度内容については、下表のとおりです。
対象 | 次の1および2を満たす法人または個人企業 1. 融資制度
2.そのほか条件
|
融資限度額 | 7,200万円(別枠) |
利率 | 融資後1年ごとに、直近の業績に応じて変動 |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
参照元 | https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57.html |
(注1)次のいずれかに限ります。
- 技術・ノウハウ等に新規性がみられる方
- 日本ベンチャーキャピタル協会の会員(賛助会員を除く。)等または中小企業基盤整備機構もしくは産業革新投資機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている方(見込まれる方を含む。)
- 新規性および成長性がみられる事業を行う方
当制度についても自己資金要件はありませんが、技術やノウハウに新規性がある場合などに限定されるため注意が必要です。
また当制度による融資は資本性ローンに該当し、貸借対照表上では「負債」ではなく「自己資本」として扱う点が大きな特徴と言えるでしょう。
制度融資(信用保証協会制度融資)
制度融資とは、地方自治体と金融機関、信用保証協会の3者が連携して行う融資のことです。
融資条件は各自治体などによって異なりますが、たとえば東京都の制度融資「創業」については下表のとおりです。
対象 | 次のいずれかに該当する方 1. 現在、事業を営んでいない方で、1か月以内に新たに個人で、または2か月以内に新たに会社を設立して東京都内で創業しようとする具体的計画をお持ちの方 2. 創業した日から5年未満の中小企業者、組合 3. 分社化をしようとする会社または分社化により設立された日から5年未満の会社 |
融資限度額 | 3,500万円 |
利率 | 融資期間などによって異なる |
参照元 | https://www.cgc-tokyo.or.jp/institution/sougyo_seido.html |
なお融資金利とは別に信用保証料の負担が必要となりますが、当制度の場合には、保証料の3分の2を東京都に補助してもらうことが可能です。
女性・若者・シニア創業サポート事業(東京都)
制度融資以外にも、各自治体独自の融資制度が設けられているケースもあります。
たとえば東京都では、女性や若者、シニアによる創業を支援するための事業を展開しており、下表の融資制度に加え、アドバイザーによるサポートなども提供しています。
対象 | 以下のすべてを満たす方
|
融資限度額 | 1,500万円(運転資金のみは750万円) |
利率 | 固定金利1%以内 |
参照元 | https://cb-s.net/tokyosupport/business/ |
融資制度以外にも、経営アドバイスや決算書作成アドバイスを無料で受けられるため、要件を満たす場合には制度の活用を前向きに検討しましょう。なお、起業時に活用できる公的な助成金や補助金などについてはこちら の記事で詳しく解説しています。
創業資金を増やす方法
創業に必要な資金を用意する場合には、金融機関からの融資以外にもいくつかの方法があります。
以下の代表例を確認し、資金調達の方法を検討しましょう。
創業に必要な資金を用意する場合には、金融機関からの融資以外にもいくつかの方法があります。
以下の代表例を確認し、資金調達の方法を検討しましょう。
家族・親族から贈与を受ける
身近な家族や親族から資金を贈与してもらうケースも多いです。
家族などから資金援助を受ける場合でも、贈与契約書を締結し、贈与の事実を書面で残すことが重要です。将来のトラブルを避けるためにも、細心の注意を払いましょう。
クラウドファンディングで資金を調達する
近年ではクラウドファンディングのプラットフォームを利用して、プロジェクトに賛同する支援者から少額ずつ資金を集める方法もあります。
不特定多数に向けて、自らのプロジェクトの魅力やビジョンを魅力的に伝えることが成功の鍵です。
国や地方自治体の助成金・補助金を活用する
国や地方自治体から提供される助成金や補助金を活用することもひとつの手段です。ただし助成金や補助金の種類によって条件や手続き、スケジュールなどが異なるため、地元の商工会議所や専門家のアドバイスを受けることが大切です。
自分の財産を現物出資として申告する
新たに事業を開始する際に、自分の所有する財産を現物出資として活用する方法も考えられます。ただし、この方法は法人の場合に限られるうえ、手続きが複雑であるため注意が必要です。
創業を「副業から」はじめて資金を貯める
現職での勤務を続けながら、副業としてビジネスをスタートし、現職の給与や副業収入を元手に創業資金を蓄える方法もあります。
給与収入と並行することで、無理なく自己資金を準備できるだけでなく、事業化するまでの期間の収入源を確保できるというメリットも期待できるでしょう。
自己資金なしで創業融資を利用するときの注意点
十分な自己資金があるケースと比較して、自己資金がない状態で創業融資を受ける場合には、以下のようなデメリットが生じるケースが一般的です。
融資額が少なくなる
自己資金が不足していると、金融機関からは計画性のない起業とみなされやすく、融資額が少なくなる傾向にあります。
特に自己資金がゼロの場合には、創業時に必要な資金をすべて融資で賄うことが困難なケースも多いです。
したがって創業資金を融資によって賄う場合には、自らが希望する借入金額の実現可能性を考慮し、計画的な資金計画を策定することが大切です。
金利が高くなることがある
金融機関は自らのリスクを考慮して、融資額や金利を決定します。
新規創業者の自己資金が少ない場合、金融機関にとっては回収リスクが高まるため、それに比例して金利も上昇する可能性があります。
金利が上昇することによって、開業後の資金繰りが圧迫される可能性もあるため注意してください。
自己資金なしの起業を成功させるポイント
現時点で自己資金がない場合であっても、起業を成功に導くためには、以下のように起業に向けた準備を徹底することが重要です。
自己資金を増やす
ビジネスの成功可能性を高めるうえでは、開業資金を確保することによって理想的なスタートダッシュを切ることが重要です。
十分な自己資金を蓄えることは、起業に向けた計画性の高さを金融機関などへアピールすることにもつながるため、自己資金なしで起業に踏み切るよりも、好条件の融資を受けやすくなるでしょう。
創業計画書を作りこむ
自己資金の有無にかかわらず、起業する際には創業計画書を作成しましょう。
自らが思い描くビジネスプランを数字に落とし込むことで、創業計画がブラッシュアップされ、より実現性の高い計画の策定につながります。
特に融資を受ける場合には、返済スケジュールも含めて創業計画を策定する必要があるため、絵に描いた餅のような内容ではなく、確度の高い計画を作るように心掛けましょう。
初期費用を抑える
起業して間もないうちは事業が軌道に乗っておらず、金銭的にも限られたリソースの中でやりくりしなければならないケースが大半です。
特に十分な自己資金を準備できない場合には、事業が軌道に乗るまではできる限り初期費用やランニングコストを抑え、スモールビジネスからスタートする方が好ましいでしょう。
具体的には過剰な設備投資を避けることや、自宅開業やシェアオフィスの活用によって、家賃などの固定費を圧縮する方法が効果的です。
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柔軟なサービスを活用することで、効率的な仕事環境の維持に加え、コスト削減にも取り組んでみてはいかがでしょうか。
結論:自己資金がなくても、創業融資の活用や開業費用の節約で起業はできる
自己資金がなくても、融資制度の活用や開業費用の節約などによって、新たな事業をスタートすることは可能です。
ただし自己資金の準備が整っている場合に比べると、融資審査が通りにくくなるなどのデメリットがあるため、あらかじめ創業計画を策定し、起業後のリスクを軽減できるようにしっかりと準備しましょう。
監修・服部 大
服部大税理士事務所 /合同会社ゆとりびと 代表社員。税理士、中小企業診断士。2020年2月、30歳の時に名古屋市内にて税理士事務所を開業。平均年齢が60歳を超える税理士業界の若手税理士として、税務顧問だけでなく、スポット税務相談やクラウド会計導入支援など、経営者を幅広く支援できるように奮闘中。執筆や監修業務も力を入れており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。