「お疲れ様」「ご苦労様」どちらが正しい?マナー講師が教える、間違いやすいビジネス敬語
正しいと思って使っている敬語の中には、実は誤った使い方をしているケースがよくあります。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及も手伝い、曖昧な日本語やマニュアル敬語、謙譲語と尊敬語の混同といった不正確な使い方が広まっています。間違った敬語は相手や周りに不快感を与えるだけではなく、信頼を得ることもできません。ビジネスパーソンとして、正しい敬語の使用は必須項目です。改めて確認していきましょう。
【×】了解しました。
【○】承知いたしました。かしこまりました。
よく耳にする「了解しました」は丁寧語に分類され、尊敬語、謙譲語ではないためビジネスではあまりふさわしい表現ではありません。特に目上の方に対して使用することは控えましょう。「承知いたしました」や「かしこまりました」の方が、相手に洗練された印象を与えます。
【×】お名前を頂戴してもよろしいですか?
【○】お名前をお伺いしてもよろしいですか?
「頂戴」は「受け取る」「もらう」という意味です。名前はたずねたり、記入してもらうものであり、「頂戴する」ものではありません。「お伺い」「ご記入」など、ふさわしい動詞につなげて使用しましょう。
【×】なるほどですね。
【○】おっしゃる通りです。
「なるほど」自体は副詞であり、丁寧語ではありません。ビジネスでは控えることが好ましいでしょう。現代ではあいづちとして「納得している」「そうなのですね」など、共感や同意、肯定の気持ちを一貫して「なるほど」と使用する人が多く見受けられます。
「なるほど、そうなのですね」を簡略化したという背景からこのような言葉が構成されたのではないかと言われていますが、あいづちを打つ際は、「おっしゃる通りです」「私もそのように考えます」「さようでございますか」などが、相手への傾聴姿勢が伝わるためおすすめです。
【×】資料になります。
【○】資料でございます。
「な(成)ります」は「午後から雨になります」など、ある状態から別のものに変わる変化を表します。この場合、用紙が資料に変化したわけではないので、「資料でございます」がふさわしい表現です。
【×】お席の方へご案内いたします。
【○】お席へご案内いたします。
「~の方」は無意識に口癖になっているケースがほとんどです。「方」は方位や比較を表す際に使用するもので、「西の方、東の方、Aの方、Bの方」などが正しい使用例。席への誘導は、方位や比較を述べているわけではないので、この場合は「お席へ」が正解です。
【×】内容はこのような形となっております。
【○】内容はこちらの通りです。
前項の「~の方」同様に一見聞き慣れた言葉づかいのため、不快に感じる人は少ないかもしれませんが、「形」という言葉は不要です。また、4項にも記載があるように「なっております」は変化を表すため、ふさわしい表現ではありません。
【×】〇〇様おられますか?
【○】〇〇様いらっしゃいますか?
「おられますか?」(居ますか?)の「居る」の尊敬語(相手を敬う表現)は「いらっしゃる」です。「おる」は謙譲語(自分をへりくだった表現)を使用していますので「おられますか?」は相手を敬う言葉ではありません。
【×】いかがいたしますか?
【○】いかがなさいますか?
「いたしますか」の「いたす」は「する」の謙譲語(自分をへりくだった表現)です。尊敬語(相手を敬う表現)は「なさる」です。「いかがなさいますか?」がふさわしい表現です。
【×】お見えになられました。
【○】お見えになりました。
「お見えになる」という尊敬語に対し「なる」の部分も「なられる」という尊敬語に変換しているため、二重敬語です。「お見えになりました」が正しい表現です。
【×】お休みを頂いております。
【○】休暇をとっております。
「お休みを頂いております」は丁寧に聞こえますが、相手の許可をもらって休んでいるという意味になり、ふさわしい表現ではありません。「休暇をとっております」が正しい言い回しですが、「大変申し訳ございませんが」などのクッション言葉を付加すれば、表現がやわらぎ、好印象を与えることができます。
【×】すいません。すみません。
【○】申し訳ございません。
「すいません」「すみません」は丁寧語ではありますが、話し言葉であり、謝罪の気持ちを伝えるにはふさわしい言葉ではありません。ビジネスシーンでは「申し訳ございません」を使うのが好ましいでしょう。
【×】ご苦労様です。
【○】お疲れ様です。
「ご苦労様です」は目上の人から目下の人に対するねぎらいの言葉とされています。目上の人や同僚に対しては「お疲れ様です」がふさわしい表現です。場合によっては目上か目下かの判断が難しい状況もあります。また、年齢や立場によっては「ご苦労様です」を不快に感じる人もいるでしょう。誰に対しても失礼にならない「お疲れ様です」を積極的に使うようにするといいでしょう。
【×】お体をご自愛ください。
【○】ご自愛ください。
「ご自愛ください」には「自分のお体を大切にしてください」という意味が含まれています。「お体を」を付けると二重表現になるので、「どうぞご自愛くださいませ」「くれぐれもご自愛ください」が正解です。
インプットとアウトプットを続けることが大切
自信を持って正しい敬語を使用する姿は、ビジネスパーソンとして信頼感を与えることはもちろん、相手に洗練された印象を与えることができます。今一度、ご自身の敬語力を見直し、誤りがないか確認してはいかがでしょうか。
執筆・監修 村山 愛氏
NPO法人日本サービスマナー協会 認定マナー講師
医療事務やアパレル、レストランなどでさまざまな接客やサービスを経験し、信頼関係は「心のつながりがあってこそ」ということを身をもって体感する。多様な接遇経験から「心からのおもてなしの素晴らしさ」を伝えたいと思い、日本サービスマナー協会の認定マナー講師の資格を取得。現在、接遇マナー研修、ビジネスマナー研修、ハラスメント防止研修、美しい日本語・話し方講座など幅広い分野で研修を担当する。