あなたは経営戦略「リーン・スタートアップ」を理解していますか?
経営戦略論を知ることは、自身のビジネスを見つめ直し、今後どういった対策をしていくべきか考える際に役に立ちます。起業家、中小企業経営者はもちろん、管理職やプロジェクトリーダーなど、すべてのビジネスパーソンに学ぶ価値があるといえるでしょう。
今回は、2010年代に登場した経営戦略論のひとつ「リーン・スタートアップ」を紹介したいと思います。
■顧客開発モデルをマネジメント全体に押し広げ実践
「リーン・スタートアップ」とは、新たな事業を小さく初めて成功しそうかどうかを早期に見極め、芽がないと判断したらすぐに製品やサービスを改良するなど、ピボット(軌道修正)を繰り返すことです。
新規事業立ち上げに極めて有効な手法として日本でも支持を集めていますが、元々は米国の起業家、エリック・リース(Eric Ries, 1979〜)が実践の中で構築していった経営戦略コンセプトです。
経営ビジョンは滅多なことでは変えないが、そのビジョンを実現するための戦略・戦術は「構築→計測→学習」のサイクルの中でピボット(軌道修正)を繰り返し、柔軟に変えていかなくてはならない。それが、エリック・リースが提唱した経営戦略です。
エリック・リースは自身の起業の失敗経験と学習を通して「リーン・スタートアップ」という経営戦略を編み出しました。リースは、イェール大学在学中と大学卒業後シリコンバレーで起業したものの、失敗に終わっています。その後2004年、オンラインソーシャルメディアのための3Dのアバターを提供するIMVU(インビュー)の創業に参画。開発業務と並行して、ベンチャーキャピタリストとしてIMVUに出資していたスティーブ・ブランク(Steven Gary Blank,1953〜)の顧客開発講座でビジネスについて学びました。
ブランクは、著書『アントレプレナーの教科書』(The Four Steps to the Epiphany, 2005年)の中で、以下の4つのステップからなる独自の顧客開発モデルを提唱していました。
(1)顧客発見(聴いて発見)
(2)顧客実証(売って検証)
(3)顧客開拓(リーチを検証)
(4)組織構築(本格拡大)
ただし、(2)でダメなら「ピボット(軌道修正)」して(1)に戻るというものです。ブランクは、「スタートアップにチームは2つだけでいい。商品開発と顧客開発だ。マーケティングも営業も事業開発もまずは要らない」と訴えていました。
このブランクの教えをIMVUにおいて顧客開発のみならずマネジメント全体に押し広げ、実践したのがリースでした。
■「構築→計測→学習」のサイクルをできるだけ迅速に回し続ける
リースは自身の失敗経験を通じて、「やってみよう(Just do it!)精神が会社を潰すのだ」と考えていました。エンジニアは「とにかく、わからないならやってみよう」と考えがちで、闇雲にプログラムを書き続けます。しかし、リースにしてみれば「どんなにそれが速かろうが、その成果が検証できないならムダな作業だ」となるのです。
そして「顧客に価値を与えないものはすべてムダ」「それが検証できないもの、学びにつながらないものはすべてムダ」であるとし、新しい商品が正しく顧客を捕まえうるか否かを検証するには「実用最小限の製品(Minimum Viable Product, MVP)」を用いることを提唱しました。エンジニアは、不完全なものを人目にさらすことを嫌います。せっかくだからと、ついでにいろいろなことを盛り込みたがる傾向にあります。しかしリースに言わせると、それではダメなのです。検証すべきアイデアだけを盛り込んだ、最小限の機能を装備した試作品でいいのです。そうでなくては対照実験になりませんし、時間も人出もムダになります。
さらに新商品の検証について、リースは次のようなサイクルを打ち立てました。
(1)「こうした顧客にはこのような製品・サービスのニーズがあるのではないか」という仮説を立て、新規ビジネスのアイデアを練る(構築=Build)
(2)アイデアに基づく試作品(MVP)をコストをかけずに製作し、それにいち早く飛びつく少人数の顧客に提供して反応を見る(計測=Measure)
(3)その結果を基に、MVPを改良する(学習=Learn)
リースは、この「構築→計測→学習」の試行錯誤のサイクルをできるだけ迅速に回し続けることに注力し、IMVUを成功に導きました。
このときの経験を基に経営戦略コンセプトを1冊の本にまとめたのが、『リーン・スタートアップ』(『The Lean Startup』, 2011年、日本語版は2012年に日経BP社から出版)です。
試行錯誤型の経営戦略は、イノベーションの成功確率を劇的に高めるとして、ベンチャーのみならず大企業の新規事業立ち上げにも取り入れられています。良い組織の条件のひとつに、常に新しいものを取り入れる新陳代謝の良さが挙げられでしょう。ぜひ、あなたも経営戦略を練る際に「リーン・スタートアップ」を参考にしてみてはいかがでしょうか。
※参照
『経営戦略大全』(三谷宏治 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
『日経ビジネスON LINE/「リーンスタートアップ」—小さな失敗を重ねて育てる』(2012年9月28日付記事)
https://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120918/236982/