オフィスのあり方が変わる!? ウィズコロナでオフィス市場はどう変化したか
テレワークの浸透や、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式(ニューノーマル)」への対応で働き方が大きく変化する中、オフィスに求められる役割もこれまでとは大きく変わりつつあります。
新型コロナウイルスの収束や景気の今後について、いまだはっきりとした道筋が見えない今、企業はどのようなオフィス戦略を描くべきなのか? オフィス仲介大手・三幸エステートでチーフアナリストを務める今関豊和氏、オフィスコンサルティング部長を務める菅野誠氏にインタビュー。東京を中心に上昇しているという賃貸オフィスの空室率、その理由と動向を前編で解説し、ウィズコロナを生き抜くための望ましいオフィス戦略を後編でお届けします。
新型コロナウイルスでオフィス市場に変化が
—— コロナ禍で東京のオフィス市場はどのように変化していますか?
今関氏:コロナ禍の影響で、賃貸オフィスの空室率が急速に上がってきています。現在は空室ではないものの、解約予告が出ているオフィスを含めた「潜在空室率」は、東京都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)にある1フロア面積50坪以上のビルで2020年1月の2.18%から、8月の4.07%まで約1.9ポイントも上昇しています。
—— なぜ空室が増えているのでしょうか。
今関氏:感染症予防でテレワークの導入が広がり、オフィスの出勤率が下がってきたことが大きな要因でしょう。多くの企業が余剰スペースは解約する、といった動きに舵を切っているためです。
他方で、オフィスの成約は停滞しています。多くの企業が、今後の見通しが立たない状況下で、新たな賃貸契約を結ぶという状況ではありません。オフィスの需要に対して解約が増えてきている結果、潜在空室率が上がってきているということです。
—— 需要が低下している一方で、募集賃料にはあまり変化がないと聞いています。なぜですか?
今関氏:東京都心5区で言えば、募集賃料は2万3,000円台で推移しており、引き下げの動きは確かに一部に限られています。
その理由はオフィス市場が今「フリーズ」状態にあるため。例えるなら、池に魚が泳いでいない状態です。賃料を下げるといった「美味しいエサ」をぶら下げても、そもそもテナントが集まる状態ではないため、募集賃料を下げる動きに結びつかないのです。
2020年の末にかけて空室率はさらに上昇!?
—— 今後のオフィス市場はどのようになっていくと予測していますか?
今関氏:解約が積み上がっている以上、年末にかけて空室率は上がっていくと予測しています。
景気面では第2四半期(4-6月期)の実質GDPは、前期比年率28.1%減で、「戦後最悪の落ち込み」と報じられました。失業率もこれから本格的に上がってくると予想されており、オフィス需要に直結する就業者数が減少すれば、空室率はさらに上がり、今後1年間で4.1%まで上昇。その後は4%台で緩やかな上昇傾向になっていくだろうと予測しています。
※ 1フロア面積50坪以上のオフィスビル
コロナの影響、東京と地方で格差も
—— 空室率の上昇といった動きは、東京と地方で同じでしょうか?
今関氏:東京と地方を比べると、東京のほうが解約は増えています。それは、東京の方が景気やテレワークの浸透による影響が大きいから。大阪や名古屋はそれほど影響を受けていません。
札幌、仙台、福岡などのオフィスは、全国規模で展開する企業の支社・支店など「支店ニーズ」の割合が高い都市です。地方の支店は、昔から同じオフィスを借りているケースが多く、景気が悪くなったからといって、すぐにオフィスの縮小や解約といった動きにはつながりません。そのため、現時点では、東京に比べると地方のオフィス市場への影響は緩やかですね。
IT系と大企業で異なる今後のオフィス対策
—— 今、東京にある企業は、今後のオフィス戦略をどう考えているのでしょうか。
ひと括りにはできませんが、テレワークを導入しやすいIT系企業と大企業で見ていきましょう。
IT系企業の場合
菅野氏:テレワークの導入などによって出勤率をある程度抑えられている企業は、現時点でもオフィスがガラガラというケースは少なくありません。特にIT系企業に多いですね。そうした企業は今まさに、今後オフィスをどうするのかという計画を練っている状況です。
緊急事態宣言が東京で発令されたのは4月上旬ですが、早いケースでは3月からテレワークを実施した企業もあります。この半年間、テレワークを継続しても業務に大きな支障がないことが分かった企業は、たとえばコロナが収束しても、コロナ前のオフィス戦略とは変わってくるでしょう。
大企業の場合
菅野氏:大企業の場合は状況が少し違います。大企業がオフィスを借りる際、数年間といった定められた期間は中途解約が原則できない、「定期借家契約」の場合が多い。そのため、たとえば丸の内といった大企業が集中する地域では空室率は上がってきていません。
そういった大企業は今、この定期借家契約で定められた期限をゴールに、オフィスを移転するのか、縮小するのかといった検討を行っています。当社にも、「オフィスはどのような理屈で縮めればよいのか?」「過去にオフィスを縮小した企業はどのような影響を受けたのか?」といった相談がたくさん来ています。
最も多いのはオフィスの「縮小」の相談
—— 今後のオフィス戦略として分散や移転という選択肢もあると思いますが、多い相談はオフィスの縮小ですか?
菅野氏:実は、最も多い相談は「他の企業はどうしているのですか」といったものです。コロナの今後が誰にも分からない中、オフィス戦略を見直すことは簡単ではありません。他の企業の動向を知りたいというのが本音なのだと思います。
移転や分散という思い切った戦略に打って出るよりも、現実路線で今できること。それは「出勤率に応じたサイズにオフィスを縮小する」ことです。
借り増しした部屋や、テレワークの導入によって利用頻度が低くなった大きな会議室などを解約するケースが一般的ですね。部分的に解約することが難しいケースももちろんあるので、どのように縮小できるのかといったところからの相談も多いです。
コロナ禍で東京一極集中の改善!? 働き方の多様化も
—— 数年前から「働き方改革」が進められ、多様な働き方を認めようという取り組みが続いています。オフィス戦略の観点から、今回のコロナ禍がそれにどう影響していると思いますか?
菅野氏:オフィス戦略を見直す企業が多いのは、コロナの影響の他に「働き方改革」を進めなければならないという社会の潮流があります。多様な働き方の推進、働きやすい環境の整備、介護や育児と仕事との両立サポートなどをふまえて、コロナに関係なくテレワークを推進するという企業が増えていましたよね。
たとえば、働くお母さんたちの育児と仕事の両立を考え、テレワークや在宅勤務を可能にする。オフィスも東京一極集中ではなく、船橋、大宮、横浜などにサテライトオフィスを設置し、本社は縮小していくという戦略を立てるケースも見られます。
テレワークの拡大やサテライトオフィスの設置、つまりオフィスの縮小や移転、分散といった相談は「働き方改革」によってすでに増えていて、コロナ禍をきっかけにオフィス戦略の見直しや働き方の多様化に拍車がかかったということだと思います。
まとめ
いかがでしたか。新型コロナウイルス感染症といった未曾有の事態は、賃貸オフィスの空室率上昇など、東京のオフィスマーケットに大きな影響を与えていることがわかりました。多くの企業は今後オフィスをどうしていけばいいのか、戦略の見直しを迫られているようですが、オフィスを縮小したり、東京ではない都市部にサテライトオフィスを構えたりなど、会社の規模や業種によって打つ手は異なるようです。
一方、働く側にとってもコロナの影響は大きく、在宅ワークを中心としたテレワーク拡大によって働き方の多様化が一気に進む兆しもあります。
今後、新型コロナウイルスがどうなるかは未知数の中、後編ではオフィスのあり方が今後どのように変化し、有効なオフィス戦略とは何なのかについて、引き続きお二人におうかがいします。
【後編】テレワークと“ABW”の融合!? アフターコロナに必要なオフィス戦略とは
取材協力・三幸エステート株式会社|公式サイト
東急建設を経て、ジョーンズ ラング ラサール日本支社、米国本社でリサーチ業務を担当後、2010年より現職。デンバー大学よりM.B.A.、ジョージア州立大学より博士号取得。明海大学不動産学部 非常勤講師を兼務。
2019年より現職、ユーザー向けFM企画戦略コンサルティング業務に従事。税務、会計との調整、資産管理やリース管理をはじめ、予算作成やコスト比較、不動産の賃貸借交渉等ファシリティ各分野を熟知。合併や本社移転などの大型プロジェクトを得意とする。
アクセス便利な情報発信の地、『銀座・新宿・渋谷・虎ノ門・神田』に位置し、首都圏の賃貸事務所、賃貸オフィスを幅広くカバー。 フットワークの軽い若手の営業から経験豊富なベテランの営業まで、あらゆる場面でお客様を力強くサポートいたします。お客様と同じ目線に立ち、お客様の悩みを共有し、お客様と喜びを分かち合える最良のパートナーでありたいと願っております。すでにオフィスの移転計画がある方もない方も、貸事務所に関することならまずはお気軽にご相談ください。