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ブレストで本当にいいアイデアが生まれる?社会的手抜きの効果って?

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    2015年の1月1日、NHKEテレが放送した『大心理学実験』という番組の中で、トラック引きの実験をやっていました。

    筋骨隆々の屈強な5人の男性が「トラック引きの挑戦」と教えられ(この時、1人ずつの引っ張る力を測定することは伝えていません)、まず1人ずつトラックを引っ張ります。その結果、5人は、93.1kg、107.2kg、83.5kg、105.6kg、141.7kg(平均で106kg)の力を出したそうです。

    次にロープを3本に増やし、3人でトラックを引きました。すると平均100.2kgの力になり、1人ずつ引いた場合の94%にパフォーマンスが落ちました。

    さらにロープを5本に増やし、5人で引くと、結果はさらにパフォーマンスが落ち、1人ずつ引いた場合の92%、平均97.9kgとなりました。

    別の5人組(大学のサッカー部員)でもう1回試してみましたが、1人ずつ引いた時より5人で引いた時のほうが平均値が低下するという結果は変わりませんでした。

     

    ■「社会的手抜き」とは?

    実はこうした綱引きの実験は、1913年にドイツの心理学者リンゲルマンがすでに行っていました。ただし、リンゲルマンが予測していたのは、「参加人数が増えることで相乗効果が生まれ、1人が発揮する力もより大きくなるのではないか」というものでした。ところが、まったく逆の結果が出てしまったのです。

    リンゲルマンの実験では、2人で構成されたグループは期待値の93%、3人で構成されたグループは85%、8人で構成されたグループは49%しか力が発揮されなかったそうです。

    つまり、「集団で作業を行う場合、メンバーの人数が増えれば増えるほど1人あたりの貢献度が低下する」という現象が確認されたのです。この現象は、「リンゲルマン効果」あるいは「社会的手抜き」と呼ばれています。

     

    ■認知的パフォーマンスにも「社会的手抜き」は現れる

    『人はなぜ集団になると怠けるのか「社会的手抜き」の心理学』(中公新書)という著書もある大阪大学教授である釘原直樹氏は、「社会的手抜きは人間のさまざまな社会的行動についてまわる現象」であると指摘しています。

    非効率な会議や授業中の問題行動(居眠りや私語、〝内職〟など)は典型的社会的手抜きであり、仕事中のインターネット私的利用も社会的手抜きの一種だといいます。

    また、社会的手抜きは、肉体的パフォーマンスだけでなく、発想やアイデアの創出のような認知的パフォーマンスにも現れることが明らかにされています

    例えば、「ブレーン・ストーミング(ブレスト)」は、さまざまな実験、研究により、「集団のメンバーに主観的満足感をもたらす傾向があるが、実際の1人当たりのアイデア創出数は個人よりも劣る」ことが判っています。

    釘原氏は、社会的手抜きが起きやすい条件として次の5点を挙げています。

    • 個人の貢献度が評価されにくい
    • 努力しなくても結果に影響を与えない
    • 周囲もあまり努力していない
    • 緊張感の低下
    • 注意の拡散

    この条件を当てはめて考えてみると、確かに、ブレストは社会的手抜きが発生しやすい(つまり、個人の生産性を低下させやすい)集団作業と言えるでしょう。

     

    ■「社会的手抜き」を防ぐには?

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    では、社会的手抜きを起こさせないようにするには、どうすればよいのでしょうか。

    冒頭で触れた『大心理学実験』という番組のトラック引きの実験には、実は続きがあります。

    綱引きを極めた、綱引き連盟の人たちに1人ずつ・3人・5人でトラックを引いてもらったところ、1人当たりの力はほとんど低下しませんでした。

    また、チアリーダーたちが筋骨隆々の5人組を「がんばれ!がんばれ!」と応援すると、5人でも1人ずつの時とほぼ同程度の力を出しました。

    さらに、大学のサッカー部員が挑戦し、今度はチアリーダーたちが特定の1人だけの名前を呼んで応援すると、名前を呼ばれた1人だけはパフォーマンスが落ちませんでしたが、他の4人は応援がなかった時よりさらに手を抜いてしまいました。

    これらの実験結果から、NHKEテレ『大心理学実験』番組内では次の2点を導き出していました。

    • 社会的手抜きが起きそうな状況でも、課題に習熟した、その課題のための技能向上に努力している人たちは手抜きをしない
    • 社会的手抜きが起こりそうな状況でも、モチベーションが維持されると手抜きをしない

    「課題のための技能向上に対する努力」と「モチベーションの維持」。集団の作業を率いる者にとっては、メンバー個々人の生産性を維持するために、この2つが重要なテーマになると結論できそうです。初めから向上心やモチベーションの高い人材を高望みするより、「相手をその気にさせる、相手のやる気を引き出す“名経営者の格言”から学ぶビジネスセンス」に書かれているように、こちらが働きかけることでお互い成長していけることも有意義ではないでしょうか。

     

    ※参照元
    日本社会心理学会広報委員会 NHK「大心理学実験」関連情報
    『人はなぜ集団になると怠けるのか』釘原直樹著(中公新書)

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