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「人生100年時代」の新たな旗手となるか~奮闘するシニアベンチャーを特集

起業やベンチャーといえば、つい若者をイメージしますが、最近はシニアの起業も珍しくありません。高齢者が「第2の人生」で起業し、成功した事例はたくさんあります。厚生労働省でも、2016年からシルバー起業家の支援を目的とした助成金制度を開始しており、シニアベンチャーにとっては追い風が吹いています。

これまでのキャリアで培った技術を生かして起業する人、あるいは社会問題への関心がきっかけで起業するケースなど、起業のカタチは人によってさまざまです。今回は、各方面で奮闘するシニアベンチャーをご紹介します。

現代農業が抱える問題を解決したい―米粉パン専門店「カフェらいさー」

銀行マンからパン職人に!

村上孝博さん(以下、村上さん)は、63歳のとき「米粉パン」の製造・販売を専門とする「カフェらいさー」(神奈川県横浜市)を開業しました。もともとは銀行マンだったという村上さん。岐阜県の高校を卒業したあと、大手銀行で融資や営業を担当し、バブル経済崩壊時には不良債権の処理にも奔走しました。57歳で自動車部品メーカーへ出向したのち、60歳で定年退職を迎えます。65歳まで雇用延長することもできましたが、岐阜にいる母親の介護のために60歳で引退する道を選びました。

村上孝博さん(68)

農業が抱える問題を解決することが最終目標

母親の他界後、「何かしなければ」とハローワークの職業訓練に通い、パンやケーキ作りの実習を通じて、はじめて「米粉パン」と出会います。また農業の講習では、日本で食料自給率が低迷していることや、休耕地が増え続けている問題を知り、「自分でパン屋を開くことで農業問題に貢献したい」と、米粉パン専門のお店で起業する決心をします。

ところが、それまで料理の経験はほとんどなかったという村上さん。プロ向けの米粉パン教室へ通うことから始め、介護施設での1年間のテスト販売を経て、ようやくお店をオープンしました。「カフェらいさー」は口コミで評判が広がり、売り上げは採算ラインをクリアしています。

シニアへ向けて-「起業は楽しく健康でいられて、生きがいにもなります」

シニア世代へ向けたメッセージとして、「後半の人生をどう生きるかは人それぞれ。起業はあくまで選択肢の一つですが、楽しく健康でいられて、生きがいにもなる」と話す村上さん。第2の人生を歩みだしたいシニア世代や主婦の起業相談にも乗っているといい、すでに「カフェらいさー」を“のれん分け”して独立している人も。農業問題やシニアの生きがい作りなど、さまざまな課題に貢献するパン屋として地域で活躍しています。

<公式サイト>https://www12.plala.or.jp/raiser

79歳からの挑戦―和田京子不動産株式会社

「おばあちゃん、勉強しようよ」

和田京子さん(以下、和田さん)は、東京都江戸川区で「和田京子不動産株式会社」を運営している御年88歳の現役社長です。77歳で夫を看取るまでは、専業主婦だった和田さん。夫が他界されたあとは、何のやる気も起こらず、しばらく寝て起きるだけの生活が続いていました。そんな時、孫の和田昌俊さんから「おばあちゃん、勉強しようよ」と宅地建物取引士のテキストを渡されたことから、京子さんの起業物語は始まります。

和田京子さん(88)

和田さんはそれまでの人生で、悪質な不動産屋から欠陥住宅を買わされた苦い経験が、何度かあったため、不動産の法律や専門知識が書かれている宅建のテキストにのめり込んだそうです。

また戦争のために謳歌できなかった青春時代を思い出し、「もう一度、学生になって勉強したい」との思いから、なんと79歳で、宅建の専門学校へ通いました。卒業後には、合格率16%の難関試験に見事クリアし、女性最高齢の合格者となりました。

80歳で起業を決意!

資格を取得すると、「働いて自立したい」という気持ちが抑えられなくなったという和田さん。ところが、これまで職歴もなく、すでにご高齢でもあったため、どこも雇ってくれるところはありません。和田さんは、せっかく勉強した知識を社会で生かすため、「こうなったら、自分で会社を立ち上げよう」と、起業することを決意します。こうして2010年、孫の和田昌俊さんと共に80歳にして起業し、5年目には年商5億を達成しました。

斬新なアイデアも、お客様を思えばこそ

和田京子不動産では、会社帰りや休日にしか来社できない人のため「年中無休・24時間営業」。自宅で休んでいる時もスマートフォンを離さず持っているといいます。

また通常、不動産業者は物件の売主と買主の双方から仲介手数料をもらいますが、和田さんは、買主からの手数料を思い切って無料に。買主は、一生懸命お金を貯めて、ローンを組んで家を買うため、少しでも安くしてあげたいという思いからです。

不動産業界でのお仕事の経験がなかった和田さんだからこそ、逆に業界の慣習にとらわれず、斬新なサービスを考えることができたのかもしれません。

<公式サイト>https://www.wadakyoko.co.jp

<参考図書>和田京子『85歳、おばあちゃんでも年商5億円』(WAVE出版、2016)

音のバリアフリーをめざして―株式会社サウンドファン

ヒントは昔ながらの蓄音機

今、難聴でも音声を聞き取ることができる「ミライスピーカー」が、爆発的なヒット商品になっています。開発を手掛けたのは株式会社サウンドファン。代表取締役会長の佐藤和則さんを含め、60代から70代のベテラン技術者が中心の「シニアベンチャー」です。

佐藤和則・代表取締役会長(62)

佐藤さんは、富士ゼロックスやサン・マイクロシステムズ、DELLなどで技術職・営業職で活躍したあと、コンサルタントとして独立しました。ミライスピーカー開発のきっかけは、名古屋の音楽療法士との出会いでした。「高齢の難聴者は、最近のオーディオより蓄音機の方が聞きやすい」という話を聞き、「ラッパ部分の曲面に秘密があるのでは?」と蓄音機の形状をスピーカーへ活用するアイデアを思いついたそうです。

難聴者が聞き取りやすいスピーカー

従来のスピーカーは音が一点から発せられるため、距離が離れると音が弱くなってしまいます。一方、「ミライスピーカー」は湾曲型の振動板全体を利用して、エネルギーのある音が発せられるため、難聴者にも聞き取りやすくなります。また健聴者にとっても、距離が離れた場所からの音もクリアに聞こえるメリットがあります。構造自体はシンプルなものですが、加齢性、遺伝性、突発性、メニエール、中耳炎、鼓膜がない人など、多くの難聴者の間で「聞こえ」の改善効果がありました。

サウンドファンが開発した「ミライスピーカー」

難聴者が多いといわれる海外へ向けて

すでに国内では、金融機関、公共機関(空港や役所)、高齢者施設、体育館や公民館、医療機関など、声をしっかりと届けたいシーンで重宝されています。公共の場だけではなく、個人向けのレンタルサービスも提供していますが、予約はすでに数か月待ちとのこと。

また、海外需要への期待も大きいようです。比較的聞き取りやすい「母音」中心で成り立っている日本語とは違い、「子音」が多く使われるアメリカやヨーロッパの言語環境では、難聴に悩む人の割合が日本よりも高いことが指摘されています。その理由は、加齢性難聴が最初に聞きにくくなるのは子音の高音であるため。担当者によると、すでに海外進出へ向けて特許などの手続きを進めているようで、「ミライスピーカー」が世界の難聴者を支える日も遠くないかもしれません。

<公式サイト>https://soundfun.co.jp

 

セカンドライフを模索する「団塊世代1000万人」

現役で活躍している3人のシニア起業家をご紹介しましたが、いかがでしたか?

今から3年前の2015年、団塊の世代(1947〜49年生まれ)が65歳以上となり、年金給付が開始する「2015年問題」が話題となりました。団塊世代は約800万人、その配偶者や前後の世代も合わせると、1000万人程度になると言われています。

今後、ますます高齢化が進む中、この1000万人の方たちが、セカンドライフをどのように生き生きと過ごせるかが、日本で大きなテーマとなってきます。ボランティアをしたり、再就職したり、人によって生き方は様々ですが、思い切って起業することも、選択肢なのではないでしょうか?

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