経験者がアドバイス!【起業】の手順や準備資金、融資制度について解説
「起業して夢を実現したい!」そう考えてみたものの、何から準備すればいいのか分からない人も多いのではないでしょうか。会社を辞める人は退職後の金銭的な影響を把握しておくことが大切ですし、起業を成功させるには、起業資金などをしっかり準備しておく必要があります。今回は実際に東京国税局を退職し起業した小林義崇さんの体験をもとに、起業に必要な準備や、事業が安定するまでに押さえておきたいポイントを解説します。
起業すると何が変わる?事前に把握しておきたいお金の流れ
起業したい意欲を持っている人は、すぐにでも会社を辞めてチャレンジしたくなるかもしれませんが、退職は慌てないようにしましょう。会社に勤務しながらでもできる準備は少なくありません。たとえば、「事業に必要な資格を取っておく」「副業OKの会社なら、副業として新しい仕事に着手し始める」「仕事につながりそうな交流会に出てみる」などです。
さらに、以下で説明するように、起業に伴う金銭的な影響をあらかじめ把握しておくことは、起業のタイミングを見計う上でも大変重要です。
退職すると受け取れる《退職金・失業給付金》
会社を辞めると、退職金と失業給付金が支給されるケースが多く、これらの資金は起業資金としても活用できるため、金額や受給資格などを把握しておきましょう。退職金は会社の労務規定を、失業給付はハローワークの窓口などで確認することができます。
【監修コメント】
労働基準法上、企業は、退職金を支払う場合には、①適用される労働者の範囲、②退職金の決定、計算方法及び支払の方法、③退職金の支払時期につき、就業規則に定めることとされています。そして、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成義務があり、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所での掲示、備え付け、書面の交付等の方法により、労働者に周知させなければならないとされているため、職場において、就業規則における退職金規定を確認することができます。
企業によっては、退職金規定において、自己都合による退職の場合には、通常貰える退職金よりも減額すると規定されている場合もあるため、退職金規定を確認する時には、そのような規定がないかという点についても確認するようにしましょう。
退職後の《住民税》に注意
一方、退職することによって新たに負担しなくてはならないものもあります。それが住民税と健康保険料、国民年金保険料です。まずは住民税の仕組みを理解しましょう。
サラリーマンを続ける場合、住民税は前年の所得に応じた金額を、その年の6月以降、毎月給与天引きで負担することになります。ところが会社を辞めると、給与天引きができなくなるため、自ら納付をしなくてはなりません。たとえば、2019年3月に会社を辞めた場合、退職後に無収入となったとしても、2019年6月以降に住民税を納付する義務は変わりません。
《健康保険》は保険料がアップする可能性あり
会社を辞めると、通常は「国民健康保険」に加入することになりますが、会社の健康保険組合のルールによっては、「会社員時代の健康保険を期限付きで継続する」という選択をすることができます。
もし、会社員時代の健康保険を継続する場合、保険料が約2倍になるという点に注意が必要です。会社員であれば、会社が健康保険料の半額程度を負担してくれますが、退職後は全額自己負担となってしまうため、一気に負担額が増えてしまうのです。
では、「新たに国民健康保険に加入する」という選択をした場合、どうなるのでしょうか。この場合、会社員時代の健康保険とは違う計算方法で保険料が決まります。したがって、市役所の国民健康保険の窓口に相談するなどして、保険料を把握したうえで、2パターンのどちらを選ぶかを決める必要があります。
【監修コメント】
健康保険の任意継続に加入するためには、①資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヶ月以上あること、②資格喪失日(退職日の翌日等)から20日(20日目が土日・祝日の場合は翌営業日)以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること、という条件を満たしていることが求められます。また、健康保険から国民健康保険への切り替えは、国民健康保険法上、退職日の翌日から14日以内と期限が設定されています。以上のように、健康保険の任意継続及び国民健康保険への切り替えのどちらにおいても、期限が定められているため、市役所の国民健康保険の窓口に相談などをする場合には、早期に相談を行うようにしましょう。
《国民年金》の保険料は固定金額
年金については、会社員であれば厚生年金に加入しているのが一般的ですが、会社を退職すると、自動的に厚生年金を脱退することになります。そして、新たに加入することになる国民年金の保険料は、毎月16,520円(令和5年度)です。
ここまでに説明した金銭的影響を総合すると、毎月の出費は会社員時代よりも大きくなるはずです。このことも踏まえ、事業が安定する時までを耐えられるだけの資金を準備する必要があります。
起業に必要な資金は「創業融資」の活用を
個人事業主として開業する場合、開業届を税務署に提出すれば起業は完了。また、法人の場合でも2006年の法改正により、1円から株式会社を設立することが可能になりました。しかし、実際にどんな事業であってもビジネスをスタートするためには300万円の資金が必要だともいわれており、自己資金で初期費用をすべてまかなうのではなく、公的な起業支援制度を利用することをおすすめします。
代表的なものとして、「創業融資」があります。創業融資は、金融機関による一般的な融資と比べ条件が優遇されており、たとえば、政府系金融機関である日本政策金融公庫が行う創業融資(※)は、一般の金融機関よりも利率が低く、しかも無担保、無保証人で資金を借りることができます。
さらに、創業融資をさらに使いやすくする創業支援制度を用意している地方自治体もあります。金利の補助などが受けられるほか、相談窓口で融資申請の相談をすることもできるため、積極的に利用すると良いでしょう。
(※)新創業融資制度
【監修コメント】
日本政策金融公庫が行う新創業融資制度は、令和6年3月31日に終了となり、令和6年4月1日より、新創業融資制度の適用なく、無担保・無保証人で、各種融資制度を利用できるようになりました(創業時支援)。各種融資制度の中でも、新規開業資金という融資制度を利用する場合には、新創業融資制度より運転資金の返済期間が長いことや自己資金要件がないということから、起業により挑戦しやすい支援制度が充実することになりました(新規開業資金)。
融資を受けるためには、創業計画書を提出し、事業計画の内容について確認を受けることが必要となります。円滑に融資を受けることができるように、創業計画書作成の段階から、事業を行うために必要な許認可等の業法に関する法務をはじめ、税務、会計等について各種専門家に相談をするのが望ましいといえます。
収益の安定化に必要なのは? 財務状況の把握がマスト
起業した後は「収益の安定化」を目指しましょう。そこで心がけたいのが、財務状況の把握。まずは日々の取引や入出金を記録して帳簿をつけることが大切です。
帳簿をつけることで、毎月の売り上げや経費などを把握することができるため、「取引数を増やすべき」「経費を削減しよう」といった戦略を考えられるようになります。また、口座の入出金も定期的に確認しておけば、「経費を支払うお金が足りない」といった事態を未然に防ぐこともできるでしょう。
帳簿をつけることが難しいと感じるのであれば、税理士に代行を依頼するか、会計ソフトを利用することもできます。クラウドの会計ソフトを使えば、月額千円程度で、さまざまな機能を利用することができ、帳簿の出力も簡単です。
起業家を応援するサーブコープのオフィスサービス
いかがでしたか。実際に起業して個人事業主として活躍されている小林さんは、起業前・起業後のお金の流れを理解していたため、安心して新しい事業に集中することができたそうです。これから起業を目指す方も、起業によって変わるお金の流れを事前にしっかりと理解し、必要な準備を始めてみてください。
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■取材協力・小林義崇(こばやしよしたか)
元東京国税局職員。都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2017年7月、東京国税局を辞職しライターとして開業。実用書や雑誌・WEBメディア記事を多数執筆。
■監修コメント・田中 伸二(たなかしんじ)
弁護士法人 GVA(ジーヴァ)法律事務所