インボイス制度とは? フリーランスや個人事業主への影響を解説
2019年10月から消費税率が10%に引き上げられ、消費税率10%と8%が混在する「軽減税率」も導入されました。これに伴い、4年後の2023年から、小規模事業者の収入や納税額に影響を及ぼす「インボイス制度(適格請求書等保存制度)」がスタートします。
このインボイス制度は、フリーランスや個人事業主などの小規模事業者に大きな影響を与えると話題になっています。2023年はまだ先の話だと思われるかもしれませんが、今のうちにインボイス制度のポイントや問題点を知り、対策を始めましょう。
インボイス制度で一番影響を受けるのは誰?
まず、インボイス制度導入で一番影響を受けるのは、企業などの課税事業者と取引きのある、「年間売り上げ1000万円以下」の個人事業主や小規模法人の免税事業者です。同じ免税事業者であっても、消費者を相手にした飲食店や美容院といったサービス業の場合は大きな影響はありません。
最も影響を受けやすいのは、税理士や行政書士といった企業と取引きが多い士業系の事業者、ライターやデザイナーなど企業に作成物を納品することが多いフリーランス、支払い元が企業になる場合は個人タクシーなども対象です。
インボイス制度とは
ではインボイス制度とは何でしょうか。解説していきます。
事業者は消費税を納税するとき、商品を販売した際に受け取った消費税額から、仕入れや経費の際に支払った消費税額を差し引いて納税します。これを「仕入れ税額控除」と言います。その際、仕入れに係る消費税額が分かる請求書や納品書を保存していないと、仕入れ税額控除を受けることはできません。
2023年に導入されるインボイス制度は、税務署長に申請をして登録を受けた「適格請求書発行事業者」だけが発行できる「適格請求書(インボイス)等」がないと、仕入れ税額控除を受けることができなくなるというものです。インボイスには、適格請求書発行事業者の登録番号が記載されます。登録番号のない請求書や納品書では、仕入れ税額控除を受けられません。
なぜ、これがフリーランスや小規模事業者に大きな影響を及ぼすと言われているのでしょうか。その理由は、適格請求書発行事業者として登録を受け、インボイスを発行できるのは消費税の納税義務のある「課税事業者」だけだからです。
免税(非課税)事業者はどうなる?
日本においては、課税売上高が1000万円以下の企業やフリーランス、設立2期以内で資本金・出資金が1000万円未満の企業などは、消費税の納税負担が免除されています。全事業者の6割程度にあたる約500万の事業者は売上高1000万円以下の「免税事業者」だと言われています。
インボイス制度がスタートすると、こうした免税事業者にあたる多くのフリーランスや小規模事業者は、適格請求書発行事業者として登録を受けることができず、インボイスを発行することができません。仕事上、不利になる可能性もあります。なぜでしょうか。
免税事業者にあたる多くのフリーランスや小規模事業者から商品などを仕入れたり、サービスを受けたりする側(取引先)にとってみれば、課税事業者に支払った消費税額は控除されるのに、免税事業者に支払った消費税額は控除されないことになるからです。
例:取引先が商品を1万円+消費税1000円で仕入れ、2万円+消費税2000円で販売した場合。取引先の消費税の納税額は……
【課税事業者(適格請求書発行事業者)から仕入れた場合】
2000円−1000円=1000円 ※1000円の税額控除が認められる
【免税事業者から仕入れた場合】
2000円−0円=2000円 ※1000円の税額控除が認められない
インボイス制度の目的
免税事業者であるフリーランスや小規模事業者としては、取引きを継続してもらうために、課税事業者となって適格請求書発行事業者の登録を受けるという選択肢があります。実は、政府がインボイス制度の導入を決めた目的はここにあります。
軽減税率が導入されたことで、当初予定していた消費税率一律10%引き上げに比べて、税収は目減りすることが予想されます。財務省は2019年2月、この減収見込みを1兆890億円程度と試算。その穴埋め策の一つとして、インボイス制度の導入を挙げています。免税事業者の多くが課税事業者となれば、消費税を納付することになり、その分、政府は2480億円の税収を見込めるのです。
ポイントのおさらい
- インボイス制度の導入開始は2023年10月から
- 免税事業者である、年間売り上げ1000万円以下のフリーランスや小規模事業者が大きな影響を受ける
- 取引先は「仕入れ税額控除」を受けるため、免税事業者との取引きをやめたり、免税事業者に値下げを要求したりする可能性がある
- 免税事業者のままでいるか、課税事業者になるか、決断する必要がある
インボイス制度の導入開始は2023年10月ですが、完全導入は2029年10月から。6年間の猶予期間を設け、段階的に仕入れ税控除を廃止していきます。
2023年10月→80%控除
2026年10月→50%控除
2029年10月に完全廃止
インボイス制度にどう対応するか、判断の猶予はまだ残されています。後編では、フリーランスや個人事業主などの小規模事業者と、こうした事業者と取引きのある企業が実際にどのような影響を受けるのかを解説し、2023年までにそれぞれがやるべきことについて税理士が解説します。
サーブコープは、お客さまのビジネス発展をサポートするレンタルオフィス、バーチャルオフィス、コワーキングスペースを国内外で展開中。
監修・木村聡子(きむらあきらこ)
木村税務会計事務所・所長。オンラインサロン「仕事に活かすブログ教室」運営。税理士、ウェブメディアアドバイザー、著者、逆算手帳・認定講師など様々な分野で活動中。主な著書に「あなたの1日は27時間になる。」(ダイヤモンド社)、「先輩に聞いてみよう! 税理士の仕事図鑑」(中央経済社)など。