フリーランスや個人事業主に影響が大きいインボイス制度!今のうちにできることは?
前編「インボイス制度とは? フリーランスや個人事業主への影響を解説」ではインボイス制度の概要や、フリーランスや小規模事業者などの免税事業者が大きな影響を受ける可能性を紹介しました。後編では、具体的にどのような影響を受けるのか、免税事業者はどのような準備や対策が必要になるのかについて、税理士の木村聡子(きむらあきらこ)さんにお話をうかがいました。
インボイス制度とは?ポイント4つ
前編で解説したインボイス制度のポイントは、以下の4点。
- インボイス制度の導入開始は2023年10月から
- 免税事業者である、年間売り上げ1000万円以下のフリーランスや小規模事業者が大きな影響を受ける
- 取引先は「仕入れ税額控除」を受けるため、免税事業者との取引きをやめたり、免税事業者に値下げを要求したりする可能性がある
- 免税事業者のままでいるか、課税事業者になるか、決断する必要がある
すべての免税事業者がインボイス制度の影響を受ける?
—— インボイス制度が導入されると、免税事業者はどのような影響を受けるのでしょうか?
インボイス制度が導入されても、すべての免税事業者に同等の影響があるわけではありません。あなたが免税事業者だとして、受ける影響は取引き相手が消費税の申告をするかどうか、つまり免税事業者か課税事業者かによって変わります。影響の度合いは次の3つに分かれるでしょう。
1. あまり影響がない | 2. やや影響がある | 3. とても影響がある | |
あなた | 免税事業者 | 免税事業者 | 免税事業者 |
取引き相手 | 一般消費者 | 免税事業者 | 課税事業者 |
理由 | 一般消費者は消費税の申告をしないため | 免税事業者がインボイス制度導入で課税事業者になる可能性があるため | 免税事業者との取引きをやめたり、値下げを求められる可能性があるため |
- 「あまり影響がない」と考えられるのは、あなたが八百屋さんや美容師さんで主な売り上げ先が一般消費者の場合です。一般消費者は消費税の申告をしないため、あなたが免税事業者のままでも、特段問題はありません。
- 「やや影響がある」と考えられるのは、主な売り上げ先があなたと同じように免税事業者の場合です。例えばあなたが花屋さんで、取引先がまだ開業したばかりの飲食店、かつ免税事業者だとします。免税事業者は消費税の申告をしないため、影響はありません。ですが、免税事業者は今後、インボイス制度導入を機に課税事業者になる可能性があるので、楽観視はできません。
- 「とても影響がある」と考えられるのは、主な売り上げ先が課税事業者の場合です。このケースが一番危機的です。例えばあなたがフリーランスのライターやイラストレーター、または税理士などの士業者で売上高が1000万円を切り、取引先が中小や大企業などの課税事業者の場合、影響はとても大きくなるでしょう。
インボイス制度が導入されるまでにできる対策は
—— 3番目の「とても影響がある」ケースにあてはまる場合、免税事業者は今から何をすればよいでしょうか?
このケースにあてはまる免税事業者はインボイス制度導入を機に、取引きを止められたり、「消費税を上乗せして請求しないように」と求められたりする可能性があります。例えば、100万円の売り上げだったら、消費税を上乗せした110万円ではなく、100万円で請求するよう要求されるということです。
今からできることは、まず、自分が取引きしている売り上げ先をリストアップし、相手が課税事業者かどうか、自身の収入のうちどの程度を占めるのかといった影響を見極めましょう。そして、次にやっていただきたいのが売り上げ先である課税事業者への「内偵(ないてい)」です。
—— 「内偵」とは何でしょうか。
これは、内々に「免税事業者へのスタンス」を聞いてみるということです。
インボイス制度の話題が浮上してから、個人的に課税事業者に話を聞いてみました。分かったのは、相手が免税事業者であるということだけで、取引きを切ったり値下げを要求したりするわけではないと言う事業者もいました。
腕の良さや納期を必ず守るといったことも、取引きを決める重要な要素です。つまり、仕入れ税額控除を受けられなくても、取引きを続けたいという相手であれば、取引きをやめないという事業者がいるということです。
—— 具体的に何を聞けばいいでしょうか。
免税事業者はインボイス制度本格導入までの4年間、取引先の社長や営業担当者に対して、それとなく、「免税事業者への御社のスタンスは?」という話を聞いてみることをおすすめします。デリケートな話なので聞きづらいかもしれませんが、聞き出せる可能性はあります。
このように情報を集めたりした上で、免税事業者は自らの「身の処し方」を決めなければなりません。選択肢は2つ。このまま免税事業者であり続けるか、課税事業者を選択し、消費税を納めることと引き換えにインボイス発行事業者になるかです。
インボイス発行事業者になるかどうかで判断に迷う場合は、課税事業者を選択したときの税負担や事務処理負担増と、免税事業者のままで想定される収入の減少額を比較するなどして、シミュレーションをしてみましょう。
課税事業者になると何が変わる?
—— では、免税事業者から課税事業者になった場合のシミュレーションをするとして、具体的にどのようなことを想定するべきでしょうか?
まず、これまで不要だった消費税の確定申告が必要になります。どれだけ作業量が増えるのか、申告ソフトを導入するべきか税理士に頼むのかなどを把握しましょう。
また、当然ながら、これまで免除されてきた消費税の納税義務が発生するため、その分の利益(もうけ)が減ります。どれくらいの納税額が発生利益を圧迫するのか、把握するようにしましょう。
例:売上高500万円+消費税50万円で、仕入れ額300万円+消費税30万円の場合。消費税の納税額を差し引いた事業者の利益は……(本則課税の場合)
【免税事業者の場合】
550万円−330万円=220万円
【課税事業者の場合】
550万円−330万円−(50万円−30万円)=200万円
※年間20万円の利益減
その他にも、経理などの事務処理負担が増大する要素がいくつかあります。インボイス(適格請求書)には、軽減税率適用商品(8%)と適用外商品(10%)の内訳や、税率ごとの消費税額を記載する必要があるため、請求書・領収書・レシート・納品書などに記載する項目が増え、作成にかかる負担が増加します。
事業者によっては、発注、仕入れ、販売の際に、税率ごとに商品を管理できるシステムを導入する必要もあるでしょう。さらに、インボイスは発行事業者もその副本の保存が義務付けられます。蓄積すると膨大な量になるので、保管場所を確保したり、保管期間が終了した際に廃棄したりする手間などの負担も発生することになります。
—— 影響が大きい分、免税事業者のままでいるべきか、課税事業者になるべきか、判断は難しいですね。
影響を並べると不安要素が多いように見えますが、消費税を納税することで取引先をつなぎとめ、値引きを迫られることもなくなると考えればどうでしょうか。失われる利益と収める消費税額との比較考量をして判断すべきですが、これをきっかけに「売上高1千万円をはるかに超えて、ガンガン稼ぐ」と前向きに考えるのもアリだと思います。
事務負担についても、例えば売上高1000万円を切るような事業者の取引きはそう多くないので、「週に1回」など、定期的に経理処理をする習慣を身に付け、やり方を覚えれば、そこまで負担にはなりません。
税理士によるセミナーに参加するなどの手間はかかるかもしれませんが、税金の知識を増やしたり、税理士に税務相談をしたり、横のつながりを得たりといった機会にもなります。
国が免税事業者という仕組みをなくそうとしている以上、課税事業者という選択肢を前向きに捉え、判断していく他はありません。
免税事業者と取引きのある企業が今後、準備すべきことは?
—— 最後に、免税事業者と取引きのある企業が今後、準備すべきことは何でしょうか。
インボイス制度導入後、免税事業者と取引きをする課税事業者は、「仕入れ税額控除」が得られなくなります。ですが、それだけの理由で取引きをやめるのはもったいない相手もいるでしょう。仕入れ税額控除が受けられない場合、納める消費税額がどうなるのかを計算し、総合的な判断をしてみてはいかがでしょうか。
取材協力・木村聡子(きむらあきらこ)
木村税務会計事務所・所長。オンラインサロン「仕事に活かすブログ教室」運営。税理士、ウェブメディアアドバイザー、著者、逆算手帳・認定講師など様々な分野で活動中。主な著書に「あなたの1日は27時間になる。」(ダイヤモンド社)、「先輩に聞いてみよう! 税理士の仕事図鑑」(中央経済社)など。