テレワークとは? リモートワークとの違いやメリット、企業の導入事例を徹底解説
働き方改革の一環として、テレワークを導入する企業は着実に増加しています。2020年以降、多くの企業が否応なくテレワークを経験することとなり、その後もハイブリッドワークや完全リモートなど、柔軟な働き方が一般的となりました。特に大企業では、従業員の多様なニーズに応える選択肢の一つとして、テレワークを積極的に活用する傾向が強まっています。
しかし、企業規模によってテレワーク導入には大きな差があるのが現状です。特に300人未満の中小企業や小規模事業者では、導入率が依然として低い水準にとどまっています。テレワークとは具体的にどのような働き方なのか、また企業にどのようなメリットをもたらすのか、本記事では実際の導入事例を交えながら、テレワーク活用の基本と効果的な導入方法について詳しく解説します。
テレワークの定義
そもそも、テレワークとは何なのか。日本テレワーク協会は、テレワークについて以下のように定義しています。
「情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、『Tele=離れた所』と『Work=働く』をあわせた造語。 テレワークは働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、モバイルワーク、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)の三つに分けられます。」
テレワークとリモートワークの違いって?
最近は「テレワーク」「リモートワーク」という言葉をよく耳にしますが、そもそも言葉に違いはあるのでしょうか?
リモートワークは「Remote=遠隔」「Work=働く」を組み合わせた造語で、そのまま「(会社の)遠くで働く」ことを指します。一方、テレワークは前述の通り「Tele = 離れた所」と「Work=働く」を組み合わせた造語。こちらも、やはり「(会社の)遠くで働く」ことを指します。そのため、言葉としての違いはほとんどありません。
ただし、日本テレワーク協会が「テレワーク」について「①在宅勤務」「②モバイルワーク」「③サテライトオフィス」の三つを想定しているのに対し、「リモートワーク」には特に定義がなく、「オフィス以外の場所で働くこと」と、より広範に解釈されています。
テレワークにはどんな種類がある?
テレワークには主に以下の4種類あり、それぞれ特徴が異なります。ニーズに合わせて、適切な形態を選択するようにしましょう。
在宅勤務
在宅勤務は、自宅を就業場所として働く形態です。通勤時間の削減により、ワークライフバランスの向上が期待できます。一方で、社員同士が直接顔を合わせる機会が減るため、こまめな情報共有や連携を意識的に行う必要があります。
サテライトオフィス勤務
サテライトオフィス勤務は、本社から離れた場所にある小規模なオフィスで働く形態です。オフィスは自宅近くや通勤に便利な場所に設置されていることが多く、在宅勤務と比べて業務に集中しやすい環境が整えられます。
モバイルワーク
モバイルワークは、モバイル機器を使用して場所を問わずに働く形態です。営業職や外回りの多い職種に向いており、シェアオフィスやコワーキングスペースなど、さまざまな場所で仕事ができます。なお、モバイルワークを行う際はセキュリティ面の配慮が必要です。
SOHO(Small Office Home Office)
SOHOは、自宅の一部や小規模なオフィスを仕事場とする働き方です。主に個人事業主やフリーランスが採用する形態で、低コストで事業を始められる利点があります。ただし、仕事とプライベートの境界線があいまいになりやすいため、自己管理能力が求められます。
テレワークを導入するメリット
企業の体制や事業内容、方針等によって異なりますが、テレワークにはメリットとデメリットの両面が存在します。ここで、それぞれ具体的に三つずつ解説しておきましょう。
メリット1.通勤時間が減り、社員のQOL(生活の質)も向上
首都圏の場合、オフィスへの通勤時間は平均49分。最も多いのは「40分以上60分未満」(27.4%)で、次いで「60分以上90分未満」であることがザイマックス不動産の調査(※2)により報告されています。リモートワークであれば、こうした日々の移動時間を有効活用することが可能です。中には時短勤務していた人が、フルタイム勤務になるケースもあります。
そのため新規に採用しなくても、必要なマンパワーを確保する手段になりえるでしょう。また、満員電車のストレスから解放されるため、社員の健康状態が改善し、欠勤の減少や離職の防止にもつながります。
メリット2.全国各地から優秀な人材を募集できる
リモートワークなら、社員がどこに居住していても問題ありません。都市部以外の地方や海外からも人材を採用することが可能です。人手不足が問題になっているこの時代、優秀な人材を確保しやすい環境は大きなメリットになります。なお、特に昨今は社員としてではなく、フリーランスや副業人材などへ業務を委託するケースも増加傾向にあるようです。
メリット3.オフィス代や交通費のコストカット
事業を運営するうえでボトルネックとなるのは、オフィスの賃貸料や光熱費にかかる膨大な経費です。リモートワークを増やせばオフィスの面積を縮小できるうえ、社員へ交通費もカットできるため、ランニングコストは大きく節約できます。
テレワークのデメリットに対する解決策
テレワークの導入は企業の生産性向上やワークライフバランスの改善に効果をもたらす一方で、いくつかのデメリットも抱えています。ここでは、テレワーク特有の主なデメリットとその解決策について解説します。
解決策1.労務管理
社員がいつ業務を開始し、いつ終了しているのか、また、勤務時間中の行動などが不明瞭であることは、テレワークのデメリットの一つです。特に勤務状況を人事評価の基準としている企業にとって課題となります。
このデメリットに対しては、勤怠管理システムの導入が効果的です。システムを活用することで、顔を合わせなくても労働時間の正確な記録や業務の進捗管理が可能になります。また、業務の可視化のため、日報やタスク管理ツールの活用もおすすめです。これらのツールを組み合わせることで、適切な労務管理体制を構築することができるでしょう。
解決策2.情報セキュリティ
テレワークでは、目の届かない場所で企業の保有する情報を使用することになります。業務用パソコンには膨大な情報が保存されているほか、各個人のインターネット環境に依存するため、情報漏洩のリスクが高まることは避けられません。
この課題に対する解決策として、まずセキュリティソフトの導入とVPNによる通信の暗号化が重要です。さらに、業務情報はパソコン内ではなくクラウドで管理することで、情報の一元管理と安全性を確保することができるでしょう。また、セキュリティガイドラインを策定し、従業員への定期的な教育を実施することで、組織全体のセキュリティ意識を高めることも可能です。これらの対策を総合的に実施することで、安全な業務環境を実現することができます。
解決策3.コミュニケーション不足
各個人がそれぞれ異なる場所で働くため、社員間あるいは上司・部下間でのコミュニケーションが不足しがちです。特に複数名が連携しながら業務を推進する必要がある場合、チームワークの悪化やそれによる業務の質低下といった懸念が生じます。
このデメリットを解消するためには、まずビジネスチャットツールを導入し、いつでも気軽に連絡が取れる環境を整備することが欠かせません。加えて、Web会議システムを活用した定期的なオンラインミーティングを実施することで、対面でのコミュニケーションに近い形での情報共有が可能になります。また、チーム内での情報共有ルールを明確に設定することで、必要な情報が確実に伝達される仕組みを作ることができるでしょう。これらの施策により、物理的な距離を超えた効果的なコミュニケーションを実現し、円滑な業務遂行につなげることができます。
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リモートワークやテレワークのセキュリティは大丈夫? フリーWi-Fiのリスクとテレワークの安全性を高めるセキュリティ対策・ガイドラインとは?対策
テレワークに向いている職種
ここでは、テレワークに向いている職種を5つ紹介します。
プログラマー(エンジニア)
対面での打ち合わせの必要性が低く、成果物がハッキリと見えるプログラマーは、テレワークの代表的な実施職種です。ICTツールによる情報共有と成果物の提出が可能であり、多くの企業で「テレワーク可能」な職種として認知されています。
企画・マーケティング
多くの会議や対人コミュニケーションを行う企画・マーケティング職ですが、実はリモートワークの実施率の高い職種です。ある程度その会社での経験が長く、オンラインでのコミュニケーションで問題なく業務にあたれるメンバーが多いこともその理由の一つでしょう。
カスタマーサポート
クラウドシステムを活用した電話応対やメール・チャット応対など、情報通信技術の活用によって、従来のオフィスワークから在宅での業務遂行が可能となった代表的な職種といえます。
バックオフィス(経理・労務・人事)
クラウドサービスの普及により、経理や労務、給与などの業務をテレワークで実施できるようになった職種です。情報セキュリティの確保と適切なシステム環境があれば、場所を問わない働き方ができるでしょう。
法人営業
モバイル機器とクラウドサービスを活用することで、サテライトオフィスや在宅での業務が可能な職種です。情報通信技術を活用した顧客管理と報告業務により、柔軟な働き方を実現できます。
企業のテレワーク導入事例
テレワークやリモートワークには向いている業種とそうでない業種があります。総務省が2018年に行った調査によると、制度を導入しているのは「情報通信業」と「金融・保険業」がそれぞれ4割と高く、パソコンやインターネットがあれば仕事がこなせるIT関連企業や、営業や外回りが多い金融・保険業がテレワークを取り入れやすい職種になっています。
積極的にテレワークを取り入れている企業として紹介する次の3社も、まさしくIT関連企業。具体的な導入事例を紹介します。
サイボウズ株式会社
ソフトウェア開発会社、サイボウズは10年以上も前からテレワークを実践してきた先駆者的存在です。スタートは2010年、上長の承認を得れば、月4回まで在宅勤務できるというルールを試験的に導入。「一部の業務に制限は出たものの、成果物の品質は総じて低下していない」「ただし、相手の状況がすぐに分からないためにストレスを感じるケースがある」など、その都度課題を洗い出しながら徐々にテレワークを拡大・定着させていきました。
今では「オンラインのオフィス環境を整える」「セキュリティ対策をする」「テレワーク用のガイドラインを作成・周知する」「心理的安全性を確保する」を徹底し、100人100通りの働き方を宣言する「働き方宣言制度」のもと、テレワークを積極的に活用しています。
GMOインターネットグループ
GMOインターネットグループは、新型コロナウイルスの感染拡大に備え、いち早くテレワークを導入した企業の一つです。GMOは従業員の安全を確保するため、2020年1月末から都市部の従業員を対象にリモートワークを許可。一斉に約4000人規模の在宅勤務態勢を敷きました。
とはいえ、突然の実施に社員からは戸惑いの声も上がり、同社は定期的にアンケートを実施することで状況の把握に努めました。在宅勤務により光熱費などの生活費用が増加したことから「在宅勤務手当を導入してほしい」といった声や、「今後も在宅勤務を制度化してほしい」などの要望があった一方、事業への直接的な影響がないことも確認できたそうです。
株式会社キャスター
「テレワークを当たり前にする」を目標に、リモートワークの支援を行うキャスター社は、自らもテレワークを導入しました。約800人の全従業員が遠隔で業務にあたっており、採用面接までオンライン上で行っています。テレワークが前提のため、都市部在住者でなくても採用でき、人材不足に悩むこともないそうです。キャスター社は感染症発生時にいち早くホワイトペーパーを公開し、テレワークを導入するために役立つ情報を積極的に発信しました。
同社は2014年の創業以来、テレワーカーの直接雇用にこだわり、適切な労働環境と待遇の提供に力を入れてきました。2023年には東証グロース市場への上場を果たし、今後は従業員1万人以上の雇用を目指すとしています。特筆すべきは、障がいがある方や地方在住者など、従来の働き方では不利になりがちだった人々にも平等な就労機会を提供していることです。また、全国統一の募集条件を設定することで、都市部と地方の賃金格差解消にも取り組んでいます。さらに、介護や医療など、これまでテレワークが難しいとされてきた業界への展開も視野に入れており、新しい働き方のモデルケースとして注目を集めています。
テレワークの課題を解決するレンタルオフィス・コワーキングスペース
テレワークやリモートワークを始めとする自由な働き方は今後ますます定着していくでしょう。そうなれば、オフィスのように集中できるワークスペースをどう確保するのかも課題になってきます。
そこでおすすめなのが、オフィスサービスの中でも自宅とオフィスの中間的な存在である「レンタルオフィス」や「コワーキングスペース」です。これらの施設は、高速インターネット、プリンター、会議室などの設備が整っているため、必要に応じて利用可能です。また、個室や小規模なオフィススペースで作業を行えば、プライバシーの確保にもつながります。
このように、レンタルオフィスやコワーキングスペースは自宅よりも集中して作業できることから、テレワークやリモートワークで抱えている課題が解決する手段として有効でしょう。
参考:
(※1)テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)
(※2)通勤ストレスがワーカーの満足度に与える影響
一般社団法人日本テレワーク協会
サイボウズ株式会社
GMOインターネット株式会社
株式会社キャスター